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異世界でも体は資本ですから!  作者: 魚蟹 類
第十章
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形にするか否か

 急ぎではないけど重要な話、とのことだったので、セシリアさんに店内のバックヤードに入ってもらう。アルコールを飛ばしてハチミツを入れたホットワインを出したら、セシリアさんは嬉しそうに「これなら研究中でも飲める!」と飲んでいた。そしてふぅ、と息を吐くと「さっそく本題に入るね」と話し始めた。


「エレノアちゃん、栄養についての本を出してみる気はないかな?」

「本、ですか?」

「そうなの。今度ガルニエの神殿に製本の権利が回ってくるから、それに合わせて研究成果や有益な情報をまとめることになってて。私たち一人一冊ずつの出版権を貰って、合計で七冊出せるんだけどね。その内私を含めた四人は共著として製本するから、あと三冊分余裕があるんだ。そこでエレノアちゃんに、栄養の話をまとめてもらうのがいいかなって思ったんだけど……どうかな?」


 製本技術はまだ一般には浸透しておらず、神殿で製本する場合、内容には王の検閲が入る。そこで許可を得られて初めて、本としての形をとることになる。つまり、きちんと製本された本に載っている情報は、基本的には正しいものとして認識されることになるんだそうだ。


「活版印刷が実用化されたら、まずはそれまでの時点で本になっていたものが大量に印刷されて出回ることになるんだ。もちろん、神話関連の本が一番豪華な装丁になるとか、製本時点での優先度合いは変わっちゃうんだけどね」

「そう、なんですね。それはつまり、もっと大勢の……それこそガルニエの街に住んでいる人以外にも、栄養について知ってもらうことができる、ということですよね」


 そうなるね、とセシリアさんが頷く。その話は魅力的だけど、いかんせん記載された内容がすべて正しいものとして認識される、というのがネックだった。この世界で栄養の概念はほとんどない。つまり、栄養学についての本は、オカルトじみたものと認識されてもおかしくないのだ。仮にセシリアさんの顔を立てる意味で王に提出するまで至ったとしても、その後に却下されてしまう可能性は非常に高い。


「もしも出版することになったら、私だけじゃなくて、デュランド公も口添えしてくれると思うよ。エレノアちゃんたち、足治したんでしょ?」

「治した、というよりは、再発防止のための方法をお伝えしただけですよ。本当に私たちが何とかできたのかもわかりませんし、まだ様子見の段階ですから。……それに、私の知識がすべて正しいとも、量が充分だとも思えません」

「そう? うーん、私はいいと思うんだけどな。研究者としての見解だけど、エレノアちゃんの本をきっかけに、栄養を研究する人が出てくると思うんだよね。その人のために道しるべを作るって意味では、私はぜひとも本にして出してほしい。口伝だと限界があるからさ」


 また考えておいて、来週末に答えを聞きに来るよ。セシリアさんはそう言って、ワインを飲みほして帰っていった。


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