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異世界でも体は資本ですから!  作者: 魚蟹 類
第一章
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セシリア

 朝の十時過ぎ、セシリアさんの家まで来た。出迎えてくれた奥さんに、セシリアさんの様子を聞く。念のために寝かせているが、体調自体は快方に向かっているとのこと。


「あの、セシリアさんに直接お話がしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「もちろん。エレノアちゃんから言われたことなら、あの子も素直に聞くでしょうから。ほら、あなたもぜひ入って。セシリアのこと、気にしてくれたんでしょう?」

「どうも、お邪魔します。これ、お見舞いです」


 ユージーンさんがチーズを手渡す。酒屋さんにおすすめされた物だった。チーズ好きの奥さんは「まあ、わざわざありがとう。セシリアじゃなくて私が食べちゃおうかしら」と笑って言った。


 奥さんに部屋まで案内してもらう。口ぶりから察するに、多分今までセシリアさんは、大丈夫だから、と言って押し切ってきたのだろう。


「セシリア、エレノアちゃんたちが来てくれたわよ。開けても平気?」

「大丈夫だよ。来てくれてありがとう、エレノアちゃん。それから昨日のお兄さんも。そういえば、お名前を聞いてませんでしたね」

「ユージーンです。あの時はお怪我がなくて本当に良かった」


 ユージーンさんとセシリアさんのあいさつが済んだところで、さっそく本題に入る。布をかけたバスケットから、レーズンの瓶とレーズンバターの瓶を取り出す。


「バターのほうはパンに塗って食べてください。それなら、片手でも食べられますよね? レーズン単体のほうはお好きに食べていただいて大丈夫ですが、おすすめはヨーグルトやチーズと食べることですね」


 セシリアさんは嬉しそうに、「わあ、お酒に合いそう! ありがとうエレノアちゃん!」と笑っているが、ストップをかけねばならない。


「セシリアさん、まさかお酒と一緒に鉄分を摂取してそれで解決、と思ってませんか?」

「えっ……えっ、違うの?」

「全然違います、というか最悪です。なんで体調不良の時にお酒飲もうとしちゃうんですか」


 酒は百薬の長なんて言葉もあったりするが、基本的にアルコールは体に毒だ。タバコと似たようなもので、おいしいと感じる時点で体が毒に慣れ始めているだけのこと。まあ普段だったらほろ酔い程度で止めたりはしないけど、病人が飲もうとしてたら全力で止めるものだろう。


 とはいえ、お酒やタバコなんてものは、薬として使われることもあったらしいし。認識としては無理もないかもしれない。


「セシリアさん、しばらくお酒は控えてください。たしかに普段は薬になるかもしれませんが、貧血においてはお酒と相性がかなり悪いんです」

「それもエイヨウってやつか」

「そうです。ワインにはタンニンという成分が含まれてまして、これは鉄分の吸収を阻害してしまうんです。さらに酔いがさめるにはビタミンB1が必要になりまして、豚肉に多く含まれています」


 セシリアさんやユージーンさんが固まる。理解が追い付かないうちにまくし立ててしまっていたらしい。奥さんに「つまり、どういうこと?」と尋ねられる。


「青菜や豚肉を食べられないセシリアさんとお酒の相性は最悪、ということです。飲む頻度は高くても週に一回、その日のうちにソバの実で作ったおかゆを食べてください。ソバにもビタミンB1は含まれてますから」

「じゃあ、エレノアちゃんのガレット食べることにするよ」

「いや……それだと量が足りませんね。ビタミン豊富な豚肉の分まで補うとなると、おかゆ一杯分は食べないと……」

「あ、そうなんだ。うぅん、難しいなあ。……まあお酒は控えて、どうしてもって時だけにするよ。ソバのおかゆも必ず食べることにするね」


 知らなかった知識を一度に教えられたら混乱もするだろう。たしかに私が提供してもよかったが、セシリアさんのためにはならない。毎日私の店が開いているわけでもないし、健康というのは毎日の積み重ねだからだ。


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