セシリア
朝の十時過ぎ、セシリアさんの家まで来た。出迎えてくれた奥さんに、セシリアさんの様子を聞く。念のために寝かせているが、体調自体は快方に向かっているとのこと。
「あの、セシリアさんに直接お話がしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「もちろん。エレノアちゃんから言われたことなら、あの子も素直に聞くでしょうから。ほら、あなたもぜひ入って。セシリアのこと、気にしてくれたんでしょう?」
「どうも、お邪魔します。これ、お見舞いです」
ユージーンさんがチーズを手渡す。酒屋さんにおすすめされた物だった。チーズ好きの奥さんは「まあ、わざわざありがとう。セシリアじゃなくて私が食べちゃおうかしら」と笑って言った。
奥さんに部屋まで案内してもらう。口ぶりから察するに、多分今までセシリアさんは、大丈夫だから、と言って押し切ってきたのだろう。
「セシリア、エレノアちゃんたちが来てくれたわよ。開けても平気?」
「大丈夫だよ。来てくれてありがとう、エレノアちゃん。それから昨日のお兄さんも。そういえば、お名前を聞いてませんでしたね」
「ユージーンです。あの時はお怪我がなくて本当に良かった」
ユージーンさんとセシリアさんのあいさつが済んだところで、さっそく本題に入る。布をかけたバスケットから、レーズンの瓶とレーズンバターの瓶を取り出す。
「バターのほうはパンに塗って食べてください。それなら、片手でも食べられますよね? レーズン単体のほうはお好きに食べていただいて大丈夫ですが、おすすめはヨーグルトやチーズと食べることですね」
セシリアさんは嬉しそうに、「わあ、お酒に合いそう! ありがとうエレノアちゃん!」と笑っているが、ストップをかけねばならない。
「セシリアさん、まさかお酒と一緒に鉄分を摂取してそれで解決、と思ってませんか?」
「えっ……えっ、違うの?」
「全然違います、というか最悪です。なんで体調不良の時にお酒飲もうとしちゃうんですか」
酒は百薬の長なんて言葉もあったりするが、基本的にアルコールは体に毒だ。タバコと似たようなもので、おいしいと感じる時点で体が毒に慣れ始めているだけのこと。まあ普段だったらほろ酔い程度で止めたりはしないけど、病人が飲もうとしてたら全力で止めるものだろう。
とはいえ、お酒やタバコなんてものは、薬として使われることもあったらしいし。認識としては無理もないかもしれない。
「セシリアさん、しばらくお酒は控えてください。たしかに普段は薬になるかもしれませんが、貧血においてはお酒と相性がかなり悪いんです」
「それもエイヨウってやつか」
「そうです。ワインにはタンニンという成分が含まれてまして、これは鉄分の吸収を阻害してしまうんです。さらに酔いがさめるにはビタミンB1が必要になりまして、豚肉に多く含まれています」
セシリアさんやユージーンさんが固まる。理解が追い付かないうちにまくし立ててしまっていたらしい。奥さんに「つまり、どういうこと?」と尋ねられる。
「青菜や豚肉を食べられないセシリアさんとお酒の相性は最悪、ということです。飲む頻度は高くても週に一回、その日のうちにソバの実で作ったおかゆを食べてください。ソバにもビタミンB1は含まれてますから」
「じゃあ、エレノアちゃんのガレット食べることにするよ」
「いや……それだと量が足りませんね。ビタミン豊富な豚肉の分まで補うとなると、おかゆ一杯分は食べないと……」
「あ、そうなんだ。うぅん、難しいなあ。……まあお酒は控えて、どうしてもって時だけにするよ。ソバのおかゆも必ず食べることにするね」
知らなかった知識を一度に教えられたら混乱もするだろう。たしかに私が提供してもよかったが、セシリアさんのためにはならない。毎日私の店が開いているわけでもないし、健康というのは毎日の積み重ねだからだ。




