夜道
ライリーを家まで送り届けた帰り道、北区から西区に差しかかったあたりで声をかけられた。
「おせえぞ」
「ユージーン? すみません、道が思ったより暗くて。……あれ、来てくれたんですね?」
酒場で潰れたはずのユージーンだった。顔は赤いが、目の焦点は合っている。「夜の北区はエレノア一人じゃあぶねえだろ」とあくび混じりに言われる。横に並んで歩き出して、そういえばと話題を振る。
「ライリーに、弟子にしてくれと頼まれましたよ」
「あぁ、ついに言ったのか」
その言葉に、思わず勢いよくユージーンに振り向く。
「知ってたんですか?」
「相談されたんだよ、ちょっと前にな。ま、お前のことだし断らねえだろうとは思ってるけど」
イスラにも言ってた、と言われて、私だけが何も知らなかったことを知った。ちょっと寂しい気もするが、従業員同士で相談ができる環境なのは良い職場の証だ。
「あいつ、今じゃ俺らの誰より大人だからな。その分変に溜め込みやすいから、俺がしっかり見ててやんねえと。お前もイスラも、困ったことあったらすぐ言えよ。俺が何とかしてやるから」
「相変わらず頼りになりますね。お酒入ると、わりと情けないですけど」
はははっとユージーンの上げた笑い声が、思いのほか夜空に響いた。それにつられて、揃って夜空を見上げる。きれいな月が出ている。ふとユージーンの横顔を見ると、なんだか遠くを見ているようだった。星や月の、さらにその奥を見るような眼差しだ、と思い至って、目線を地面に戻す。私もまだ、お酒が回っているみたいだ。
「ユージーンは、この先どうします? いつまでも店にいるわけにもいかないんじゃないですか?」
「……レオさんに言われたこと引きずってんのか? 俺はお前みたいなやつと仕事がしたいって、前に言っただろ?」
それは確かに言っていたけど、それが本当にユージーンのためになるかは分からない。実際のところ、彼は護衛ができるだけの魔法の腕前がある。それを飲食店の従業員にとどめておくのは、彼にとって能力を発揮できない環境に居続けることになるんじゃないか、というのは、レオさんの勧誘を受けて思ったことだった。
「俺はまだ、お前に恩を返し終わってねえんだ」
ユージーンが、ぽつりと呟く。静かな夜空の下では、はっきりと聞き取れる声だった。
「恩? なにかありましたっけ? むしろ私の方が助けられてばかりだと思うのですが」
ユージーンはひとり言のつもりだったのか、目をそらして「忘れろ」と頭をかいた。
「とにかく、俺は別に護衛に戻りたいと思ってるわけじゃねえってことだよ。何なら、自分じゃこっちの方が向いてるって思ってるからな」
「……それなら良かったです。まだまだ頼りにしてますから、抜けられたら困るところだったんですよねー」
だろ、と笑い合いながら、夜は更けていく。季節はもうすぐ、冬になろうとしている。
次回から第十章に入ります。




