ライリーの将来
北区に向かう途中、そういえば、と口を開く。
「ライリー、そろそろ弁償が終わりますね」
俯いていたライリーが、弾かれたように私を見上げる。ライリーがうちの店にいる理由は、盗んだ分の弁償だ。それがそろそろ完済できるということは、ライリーがうちで働く義務がなくなるということ。ライリーがうちの店を出ても、何の問題もなくなるのだ。
「そう、だね。あとちょっとで、全額返し終わるね」
「もっと喜んでいいんですよ? 最初に言ったことを貫き通したんですから」
「そうは言っても……」
ライリーの言葉を聞きながら、はあ、と息を吐く。お酒で体温が上がっていたからか、目の前が白くなった。ライリーの手を取って繋ぐと、指先がかなり冷えていた。そのくらいの方が、かえって酔い覚ましにちょうどいい。
「ライリー。ライリーは今後、どうしたいですか? 弁償が終わって、自由にしていいと言われたら、どんなことがしたいですか?」
私の質問に、ライリーは握られた手にきゅっと力を入れて答える。
「ねえエレノア。オレさ、あの日盗みに入ったこと、ずっと後悔してるんだ。母ちゃんを泣かせたこともそうだけど、エレノアたちに迷惑をかけたこととかさ。でも、なんていうか、こんなこと言っちゃいけないんだろうけど。……あの日にエレノアたちに会えて、本当によかったとも思ってる」
そこで言葉が一度途切れる。「それでさ」と続けるその声に、あの日のようなまっすぐさを感じた。
「オレ、エレノアたちと働きたいよ。ユージーンにも色んなこと教えてほしいし、イスラには教えてあげたいことがたくさんある。それにね、オレ、夢ができたんだ」
「夢ですか?」
「うん、そう。オレ、エレノアみたいになりたい。エレノアみたいに、困ってる人の力になりたい。家の近所には、まだまだ温かいご飯を食べられない子がたくさんいる。貴族がどうにかしてくれるのを待ってる間に、固くなったパン一切れで一日を過ごさなきゃいけない子もまだまだいる。オレ、そんな子たちに、お腹いっぱいおいしいもの食べさせてあげたい。エレノアがそうしてくれたみたいに」
だからさ、と私を見るライリーの目に、泣きそうになりながら笑っている顔が映り込む。お酒を飲むと、涙腺が緩くなってしまうのは困りものだ。かっこいい大人でいることが、こんなにも難しくなってしまう。
「エレノア、オレを弟子にしてよ。オレはまだちゃんと働ける年じゃないけど、エレノアについていきたいから。だから、エレノアにお金を返し終わって、エレノアがいいって言ってくれるなら、オレはまだあの店にいたい」
「本当に、いいんですね? 弟子になるということは、ライリーも飲食店を経営する必要があるんですよ。ほかにやりたいことができても、すぐにその道に行くことはできないんですよ」
ライリーは私の言葉に、ニッと笑う。この子はこんなに大人な顔ができるようになったのかと、少し胸を打たれてしまう。
「いいよ。オレ、みんなのおかげでやりたいことが見つかったんだ。ちゃんと考えたし、母ちゃんにも相談して、いいよって言ってもらえた。あとはエレノアがオレを弟子にしてくれるのを待つだけだよ」
手を繋いでいる子どもになだめられながら夜道を歩く大人という、人には見せられない姿を晒してしまったけど、私の胸は喜びでいっぱいだった。




