お誘い
話がまとまったところで、イスラが症状だけでも緩和させようと治療をすることになった。イスラを待つ間、別室に通される。紅茶が提供され、お茶請けのお菓子までついてきた。破格の対応だ。その理由であるレオさんは、「おれ甘いのいらないからライリーくんが食べちゃうといいよぉ」なんて笑っている。
「いやー、エレノアちゃんがあそこまで怒るとは思わなかったし、そこから丸め込めるとも思わなかったからびっくりしちゃったよ。もしかして、交渉ごとが得意だったりするのかな?」
「そんなことはない、と思います。初めてのことでしたし、レオさんが止めに入ってくれなかったら、そのまま破談になってたと思いますよ」
そう言ってひと口お茶を飲む。本当に、我ながら危ない橋を渡ったものだと思う。奇跡的に丸く収まったからよかったものの、もし今後似たようなことが起きても落ち着いて対処できるようにしないと。今度は助けを得られるとも限らないのだから。
ライリーが夢中になってお菓子を食べている。少し厚めのクッキーで、食べるそばから生地がぽろぽろとこぼれている。微笑ましく見ていると、レオさんが「ところでさ」とカップを持った。
「エレノアちゃんたち、うちに来る気はない?」
「うち? 軍に入れってことですか。俺はともかく、三人は戦いとかできませんよ」
「いやいやまじめな話ね、遠征とかで炊き出しやってくれたら助かるなぁって思ったんだよねぇ。エレノアちゃんは知識も豊富だし、イスラちゃんは治癒魔法の腕もいいみたいだし、ユージーンの実力はよく分かってるし、悪い話じゃないと思うよ」
話の中にライリーが出てこなかったのは、さすがに軍に子どもを引き入れるわけにはいかないからだろう。レオさんがそれだけ本気ということだ。ライリーを話に含めないことで、確実に断られる理由を排除している。
「中央には身分証明持ってればいつでも入ることができるようになるし、お給料だって南区で店をやるよりも上がると思うし、何よりユージーンとイスラちゃんをもっと活躍させてあげられるよ。こう言っちゃ悪いけど、下町の軽食屋で二人の能力を発揮しきることは難しいと思う。それにエレノアちゃんだって、もっとその力が必要とされる場所に行けるんだから、断る理由はないと思うんだけど、どうかな?」
ユージーンは黙ってレオさんを見ている。ライリーはお菓子を食べる手を止めている。レオさんはにこにこと笑っている。まるで三人とも、私の答えが分かり切っているようだ。
「ありがたいお話ですが、お断りします。私は、四人で店をやっていきたいんです。すみません」
「うん、だよねぇ!」
レオさんが満面の笑みで「そう言うと思った!」と声を上げた。ユージーンが「急に変なこと言わないでくださいよ」と苦笑している。ライリーは「オレも四人で働くのが楽しいよ」と顔を綻ばせる。
まあ、そもそもイスラがいないところでそんな話をするんだから、本気だけど断ってほしかったんだろう。この人も、一応とはいえ貴族なのだから。




