生きていく、食べていく
デュランド公は難しい顔のまま、「いいだろう」と言った。
「そなたの言い分を認めよう、レオが言うのであれば味も問題あるまい。どの程度の頻度で食せばよいのだ」
「え……あ、えぇと、三日に一度くらいの頻度でお願いします。ですが、主菜を豚肉にできる日があればガレットでなくても構いません。ポトフにしていただくのが良いかと思います」
すんなりと意見が通ってしまったので拍子抜けしてしまった。さっきのあのやり取りは何だったんだろうか、と考えて、レオさんの立場を思い出す。レオさんはエズモンド家の次男であり、軍部を統括する貴族の出身だ。城下町の経済を担っているデュランド家に比べると、国全体に関わる分、家としての立場は強い。仮に「デュランド家は庶民の申し出ひとつろくに聞けない家だ」とでも吹聴されてしまえば、エズモンド家に対抗するのは難しいんだろう。政治的判断、というわけだ。
そう思うと、デュランド公の立場も見えてくる。彼は、庶民に甘く見られてはいけないのだ。特に商売に関わる家柄である以上、庶民と貴族の架け橋にもなり得る。そんな人物が庶民に甘いとなれば、税金を下げろだの営業審査をせずに許可を出せだのと、庶民からも貴族からも勝手な意見が出かねない。庶民と貴族の立場を、明確に線引きしないといけない責任が、彼にはあったのだ。
「デュランド公、大変申し訳ございませんでした。たしかにソバは寂れたオルコットでよく食べられている、庶民的な作物に違いありません。しかし、村では年に一度の祭りの時にのみ、実を挽いて粉にし、生地を作って焼くという伝統があるのです。自分の価値観のみで料理を作り、デュランド公のお立場も考えず、失礼なことを申し上げました」
そう言って頭を下げる。そうだ、私は貴族というものの立場を何も考えていなかった。村で特別な時に出されるものだから受け入れてもらえるだろうとか、体を治したいならつべこべ言わずに食べるべきだとか、自分の都合を押し付けていた。
私は、私の料理を食べる人のことを、きちんと見ていなかったのだ。
「……よい、頭を上げよ。こちらこそ、オルコットの風習に明るくないがゆえに無神経なことを申したな。その料理もむだにしてしまったこと、許せとは言わぬ」
ずいぶんと柔らかい言葉だった。ほんとに初対面で見下してきたデュランド公なんだろうかと思ってしまうが、事情があったと分かれば腹も立たない。ただ、食材を無駄にされたこと、それに伴う人々の苦労を無視されたことが、悲しかっただけで。
「デュランド公、私は知っておいてほしいことがあるのです。人はみな、物を食べねば生きていけません。私たちの体を作っているのが食べ物です。そしてその食べ物を作るために、多くの人の時間や苦労があります。そして作られた食材を、食べやすいように料理する人がいます。どうかそこに、ほんの少しでも構いませんので、感謝の気持ちを持ってほしいのです。私たちは、他に何百人という人たちの苦労があって、初めて生きていけるのですから」




