ラップガレット
数日後、デュランド邸の調理場を借りて、料理の試作を始める。毎日店から持ってくるわけにもいかないし、そうなるとここで作るしかないのだけど、田舎料理のガレットを貴族の邸宅で作れるかは分からなかった。なので、調理師の方に説明がてら作らせていただいている。ユージーンたちも調理場にいるが、ライリーは少し離れた場所で座り込んでいる。隅っこの方が落ち着くらしい。気持ちは分かるのでそのままにしておく。
「デュランド公のお口に合うかは分かりませんが、今回はアスパラガスと豚肉で、生地を巻いた形のガレットを作ります。ところで、レオさんはなぜここに?」
食材を並べて調理師の方が紙に書き留めている中、こちらを見てにこにこと笑っているレオさんと目が合った。貴族の男性と調理場という取り合わせが、かなりの違和感を生んでいる。
「いやさ、前にオルコットに行ったときに食べたガレットがおいしかったんだよねぇ。だからさ、もしかしたらちょっと分けてもらえたりしないかな、って思って」
「相変わらず食い意地張ってますね。失敗作しか渡せませんけど、エレノアのことだから多分何もないですよ」
まあ、とはいってもお世話になっているので、少し多めの分量で作ることにする。
「まずガレットの生地に使われているソバには、ビタミンB1が豊富に含まれています。ソバは胚芽を取り除くことなく粉状にしますので、パンよりも摂取できる量は増えます。でも熱に弱いという特性がありますから、他にもビタミンB1が多く含まれる食材を食べなくてはいけません。それが、今回は豚肉とアスパラガスです」
「こっちのタマネギは、どう使いますか?」
「付け合わせにします。タマネギと合わせると吸収効率が上がるんですよ」
正確にはタマネギが、というよりはニンニクやニラ、ネギやタマネギが効果的だ。夏バテ気味の時にソバを食べて、薬味にネギを入れるのは、何気なくやっている完璧な食べ合わせということになる。
「見た目の華やかさには欠けますけど、味は良いと思います。ただ、貴族の方が普段召し上がっている食事とはかけ離れているでしょうし、受け入れがたいかもしれませんけど」
「まあ、別に問題ないんじゃない? 盛り付けが悪いって文句言われたら、おれもさすがに何か言わせてもらうしさぁ」
シンプルに塩で味付けしたアスパラと豚肉を、ガレットの生地で巻いて半分に切る。色味が地味だけど、案外そういうものの方がおいしかったりするし、見た目にこだわるなら調理師の方が何とかしてくれるだろうし。そう自分で納得して、レオさんにひとつ差し出す。レオさんは「ありがとねぇ」と受け取って、そのままひと口で頬張った。
「ん、いいねぇ。うまいよこれ」
あとはこれをデュランド公に食べてもらうだけだ。




