推薦の打診
「すみません、店長の方にお話があるのですが」
イヴさんに対処法を伝えてから十日後の朝、赤いサーコートの男性が訪ねてきた。クリフ・シューリスと名乗った彼は、奥さんのことでお礼を言いに来たらしい。
「お忙しい中お越しいただきありがとうございます、店主のエレノア・アルダーソンです。その後、奥さまのお加減はいかがですか?」
「おかげさまで特に問題もなく、健康的に過ごしています。こちらのみなさんのおかげです、感謝のあまり言葉もありません」
すっときれいなお辞儀をされる。格好は兵士だけど、立場はそれなりに上のようだ。確か赤色のサーコートは、連隊長以上が身に着けられるものだったはず。ガルニエではかなり高い地位だ。
「お腹の子も安定してきたようでして、以前よりも快活に過ごす妻を見ると、何もできずにいた自分が不甲斐なく……。身重なのだからあまり無理はしないように、と告げていたのがまさか仇になってしまうとは……」
「いえ、シューリスさんのお言葉も間違いではありませんよ。実際、ちょっとした転倒や不調もおおごとになってしまう時期ですから。ただちょっと、奥さまの食生活や体質に合わなかったというお話でしょう」
シューリスさんは「そう言っていただけると救われます」と、眉を下げて笑う。それから世間話に花が咲き、シューリスさんが「あの、少しお願いがございまして」と困ったように言った。
「お願いですか? 従業員とも話し合う必要があるので今すぐにお返事はできませんが、内容をうかがっても?」
ありがとうございます、といってシューリスさんは耳打ちをする。どうにも、内密にしておきたいことらしい。
「実は、近ごろ貴族の間で病が蔓延しておりまして……。治癒魔法士に魔法をかけさせても、先祖より代々かかってしまっているようなのです。神殿での禊と並行しながら、異なる方法も模索しているのですが、どんな治癒魔法士もみな一様に手に負えないと言うばかりで……。そこで、みなさんのお知恵をお借りしたいのです」
つまり、貴族の病気をお祓い以外の方法で治せないかという相談だ。私からすれば何故お祓いで治せると思うのか不思議だけど、そういった言い伝えでもあるのか、本当に打つ手がなくなり困り果てているのか。
私は受けてもいいと思うけど、治癒魔法なら実際に動くことになるのはイスラだ。今日はユージーンが休みだし、全員がそろうのは明日になる。
「明日、従業員一同でお話をお受けするか相談させてください。あさっての朝にお返事をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
構わないとのことなので、シューリスさんがあさって、またここを訪ねてくださることになった。お待たせしてしまって申し訳ないけど、人助けだからなるべく私は受けたいと思う。でも、三人の意向を無視するわけにはいかないのだ。




