力不足
シューリスさんの家は、東区の中でも一番大きな坂の中腹にあった。たしかにこれは、妊婦さんは出歩かせられない。旦那さんがうちの店に配達の申し込みに来たのも頷けた。
扉の前に立ち、イスラが四回ノックをした。ギィ、と音を立てて扉が開く。そこには、使用人らしき女性が立っていた。
「突然おじゃましてすみません、南区で軽食店を営んでいるエレノア・アルダーソンと申します。当店の従業員から奥様の体調がすぐれないと聞き、お見舞いに伺いました。こちらは従業員兼、治癒魔法士のイスラ・センツベリーです」
イスラが静かに頭を下げると、女性もおずおずと頭を下げた。そうして奥に案内され、奥様の寝室に通された。ベッドには華奢な女性が横たわっていて、物音に気付いたのかうっすらと目を開けるところだった。
「奥様、あの男の子が魔法士の先生を紹介してくださいましたよ」
「……まあ。心配をかけてしまったようで、あの子に申し訳ないわね」
奥様は「こんな姿でごめんなさいね」と、ベッドの中で体を起こす。イスラがすかさず「ご無理はなさらず、楽な体勢でお話をさせてください」と言うと、奥様はお言葉に甘えて、とベッドヘッドに寄り掛かった。
「ええと、そちらの方は?」
「エレノア・アルダーソンです。ライリーとこちら、イスラの雇い主です」
「あなたが……。いつもおいしいお昼を届けてくださって、ほんとうに感謝しています。私はイヴ・シューリス、気軽にイヴとお呼びくださいな」
イヴさんはそういうと、使用人さんにお茶の用意を申し付けた。使用人さんが部屋を出ていき、寝室には私たち三人だけになる。
「さっそく本題に入らせていただくのですが、足の痛み以外にお困りのことはございませんか?」
「今のところはありません。……あぁでも、手も少し力が入りにくいかしら……?」
イスラは「失礼します」と手をかざし、軽く微笑んだまま原因を探っている。私に何かできることはないだろうかと考え、いくつか気になった点を質問してみることにした。
「イヴさんは、普段はどういったお食事をなさっているんですか? 何が食べられないとか何がお好きとか、ありますか?」
「そうですねぇ、生きていたもののお肉は頂きません。豚とか鳥とかサーモンとか、どうにも苦手で。チーズやミルクは平気ですけれど、体はどうにもだめね。お豆は好きだから、よくいただいていますよ」
ベジタリアンに近い食生活、ということか。妊娠されていることを考えると、充分とは言いにくいものがある。一人だけの体じゃないと言われるように、栄養が不足しやすくなってしまうのだから。
「とりあえずの処置ですけれど、足の痛みは治させていただきますね。ただ、イヴさんのお体に病魔の類は見当たりませんから、なにかほかの原因があるものと思われます。少しの間、こちらに通わせていただいても?」
イヴさんは治癒の感謝を述べ、往診の申し出を喜んで受けてくれた。とはいえ、イヴさんの病魔がいないとなれば考えられるのは生活習慣だ。イスラの治癒だけでは、問題は解決しないかもしれない。
私も何か力になれればと思うけど、今回ばかりは何の原因も思い当たらない。歯がゆい思いをしながら出されたお茶をいただき、とりとめもない世間話をして、シューリス邸を後にした。




