親の心子知らず
「それはイスラのご実家のご意見ですね」
イスラの実家というと、優秀な治癒魔法士の家系で地方の領主をしているはずだ。母に並び立つことを、イスラには求めていた。
「ご実家から、就職をさせてほしいというお手紙が届いたのです。いつまでも学校に留まるわけにはいかないでしょう、ということでした。わたくしどもとしては、働き口をあっせんするか、わが校の教員となるかを提案しようとしたのですが、イスラにその話をする前に手紙を読んでしまったようでして。その、何度かやりとりがあった末のお手紙でしたから、一通だけを読むと文面が厳しいものだったのです」
「厳しいもの……これ以上学校には在籍させられないから独り立ちをさせる、の一文だけとかですか?」
近しいものでした、と聞き、納得した。イスラからすれば、自分を未熟だと思っている中で「娘の将来に投資はできない」と言われたら、「もうお前に期待はしていない」と同義にとらえてしまっても仕方ないだろう。地方領主であればお金に困ることもそうないだろうし、学費を払えないほど困窮しているとは考えにくい。
家の方針で人生を決められてきたのに突然その指標がなくなったら。イスラは自分の生き方を、自分で決められない精神状態だったのではないだろうか。
「その中で、アルダーソンさんのお店で働くと告げられた時には安心したのです。街の方からも、あなた方の良いお話は聞いておりましたから。人を助けることにためらいがない、と」
「いえ、とんでもないです。私たちの方こそ、街の方々に助けられてばかりですよ。イスラも、トラブルの際に力を貸してくれたのが勧誘のきっかけだったんです」
そうなのですか、とほほ笑んでいる。穏やかで品のあるその表情は、イスラが時々浮かべる笑顔に似ていた。
「それでその、どうして私にそのお話をしてくださったんでしょうか」
「本来は、学生が働き始める前に、勤め先の方にこうしてお話をさせて頂いているのです。学生と実家との関係など、先方にも把握したい事象はあるでしょうから、と」
そこで言葉を切って、アルチュセール学長が頭を下げる。
「イスラをよろしくお願いいたします。きっとアルダーソンさんでしたら、あの子も自分の考えを尊重できるようになるでしょうから」
「……はい。イスラのこと、教えてくださってありがとうございます」
顔を上げた学長と目が合ったとき、三回のノックの音が響いた直後、バタンとドアが開いた。
「エレノアちゃんお待たせ、同室だった子からせんべつにってジャムを貰ったわ――学長!?」
「イスラ、ノックの後はきちんと返事を待ちなさい。それから室内は走ってはいけませんよ」
申し訳ございません! とイスラが頭を下げた。




