学校訪問
店を閉めてライリー、ユージーンと解散し、イスラと一緒に東区にある寄宿学校に向かう。街の中央に繋がる区域で、中心地の城は高いところにあるため、東区は坂が多い。寄宿学校も、ある程度上ったところにあるようだ。
マルシェの賑わいを抜けて、周りとは少し雰囲気の違う門をくぐる。寄宿学校の入り口は、女性が集まる場所だけあって警備が厳重だ。
守衛さんに「センツベリーです」とイスラが名乗り、木札を渡されて中に入っていく。手入れの行き届いた花壇に目を奪われている中、イスラはすれ違った人に対して、右手を胸元に添えて左手でスカートのすそをつまみ、穏やかに頭を下げている。なにそれあいさつなの? と文化の違いに冷や汗が出てきた。
「あの、イスラ。今更なんですが、本当に私も中に入ってよかったんですか?」
「え? ええ、もちろんよ。エレノアちゃん、女の子だもの」
「いえそうではなく、そのぉ、なんというか気品が……」
首をかしげるイスラに、何も言えなくなる。こう、あるじゃないか、身分の差っていうものが。店にいるときとはまるで雰囲気の違うイスラに黙ってついていき、応接間のような部屋に通された。
「わたし、荷物をとってくるわ。エレノアちゃんはここで待っていてくれるかしら? 寄宿舎には、お客さまはお通しできないの」
分かりました、と緊張したままソファに座る。イスラはすぐに戻るからと部屋を出て行ってしまったが、かといって姿勢は崩せなかった。ふかふかの柔らかいソファなんて、生まれ変わって初めて座った。見るからに高級なものに囲まれて、身動きが取れない。
机のツヤに息をのんでいた時、ノックの音が四回響いた。突然のことに肩が跳ねる。「どうぞ」と何とか返した声は、思いっきり裏返っていた。
入ってきたのは壮年の女性だ。慌てて立ち上がる私に微笑みかけ、「どうぞお掛けになったままで」とソファを手で示す。
「失礼いたします。こちらの学校で学長を務めております、アルチュセールと申します。少々お時間をいただいてもよろしいかしら?」
「え、あ、エレノア・アルダーソンです。その、はい、大丈夫です」
私の返事を聞いてアルチュセール学長は向かいのソファに座り、「イスラのことなのですけれど」と話を切り出した。
「ご活躍はかねがね伺っております。けれど、イスラがアルダーソンさんのお店で働くとは、考えておりませんでしたから、わたくしどもも驚いてしまって」
「こちらの寄宿学校では、軍医か貴族の方の専属になるのが一般的だと伺いました」
「ええ、その通りです。イスラは優秀でしたので、宮廷治癒魔法士の道もあったのですけれど……」
イスラの自己評価が低く、一年長く学校に在籍したことでその道は閉ざされてしまった。そんな中で下町の軽食屋で働くことになったのだから、学校としても衝撃は大きかったことだろう。そこまで聞いて、疑問が出てきた。どうにも、イスラの自己評価と学校での成績が嚙み合っていない。
「あの、イスラは学校に置いてもらえなくなったと言っていたのですが、お話を聞く限り除籍処分を下されたとは思えません。どのような事情があるんでしょうか」
アルチュセール学長は頬に手を当て、ふうと小さく息を吐いた。




