毒きのこ
毒と聞いて、食べられそうなのにという疑問がわきあがった。素人にはきのこの判別は難しいと聞くけど、それは赤色や派手な見た目のきのこの話であって、茶色は問題ないと思っていたからだ。
「これはクリフウセンタケではなく、カキシメジです。少なくとも栗褐色の状態では見分けがつきにくいので、避けた方が無難かと」
「なんというか、おいしそうな見た目してますけど……」
「毒の有無に色は関係ないのよ、テングタケだって茶色だもの。反対に、色が派手でも食べられるきのこもあるわ」
ハーヴェイさんはきのこを色の濃いものと淡いもので分け、「食べられるやつはあるか?」と聞いた。
「こちらのきのこはチャナメツムタケですね、食べられます。けれど、カキシメジとチャナメツムタケの同定は大変難しいものなので、確かとは言えません」
「どんな違いがあるんですか?」
「比較的分かりやすいのは色ね、カキシメジの方が濃い茶色をしていることが多いわ。けれど、場合によっては色に大きな違いがないこともあるの。カキシメジの方がにおいが良くないのだけど、人によっては気にならないくらいだから、見分けに自信がないのなら、似たきのこを見ても手を出さない方がいいわ」
へえ、と声が漏れる。そう考えると、今朝のものも本当に紙一重だったわけだ。
「縦に裂けるきのこが安全っていうのはどうなんだ?」
「そちらも根拠はございませんね。緑の葉はすべて食べられる、と考えることとなんら変わりありません」
「それは……たしかに危険だな」
ハーヴェイさんはふっと笑って、さてどうするかと多量のきのこを見つめる。
「どこかに捨てるってのもな。とはいえ食えないんじゃ仕方ないか」
「でしたら、ガルニエ女子寄宿学校にご提供いただけませんか? 教材になりますので」
毒は使い道次第で薬にもなる。もしカキシメジが活用できない毒を含んでいたとしても、それはそれで実物を見られるというのは、絵で見るのと大きなちがいがある。イスラの説得に、ハーヴェイさんは「そうするか」と言った。
「うまく使ってもらえるんなら、それでいい。今晩の飯はどうにでもなるしな」
「じゃあ、私たちが寄宿学校に持っていきますよ。この後用事もありますし」
「いいのか? じゃあ頼む」
イスラがきのこを受け取る。ハーヴェイさんの姿が見えなくなってから、そういえば彼の奥さんは気の強い方だったことを思い出した。豪快というかなんというか、言葉を選ばずに言えばかかあ天下だ。ハーヴェイさん、きのこ採りに行くと伝えていたなら、奥さんに怒られやしないだろうか。
「なんというか、意外だったわ。わたしてっきり、適当なことを言うなと怒られるものとばかり思っていたの」
「ハーヴェイさんはそういうことを考える人ではないですからね。とても優しい方ですよ」
「きっとエレノアちゃんが優しいからよ、あなたの人望だと思うわ」
そんなことはないと思うのだけど、イスラが嬉しそうに笑うものだから、「ありがとうございます」以外に言葉は出てこなかった。




