慣れ
開店直後、めずらしくお客さんの行列ができた。お昼時ぐらいの混み方だ。ライリーに列整理を頼んで、ひたすらにガレットを焼いて提供する。無理が出る前にユージーンが来てくれたので何とかなったものの、正直今までで一番きつかった。どうやらイスラ目当てのお客さんも多かったらしく、マルシェのついでに寄ってみたようだ。ある意味のリピーターにはなってくれたことだろう。
「ライリー、休憩入ってください」
「えっいや、まだお客さん多いでしょ」
「今のうちに入ってくれ、ちょっと波が引きかけてんだ」
その言葉に、ライリーが素直に休憩に入る。私はしっかりと朝ご飯を食べたし、ユージーンは忙しさを見越して早めの昼ご飯を食べてきたそうだから、ライリーには今のうちにまかないを食べてもらいたいのだ。
二人でひたすらお客さんをさばく。ユージーンが厨房、私がカウンターの組み合わせが一番多いからか、ユージーンの手際がかなりいい。私が注文を伝える前から聞き取って作っていたりする。
「いらっしゃいませテッドさん、ご注文の品こちらです銅貨四枚ですどうぞ」
「俺まだ何も言ってませんよ!?」
「お前ここんとこいっつもそれ頼んでんだろ、常連の特権ってやつだよ」
テッドさんは常連かあ、と嬉しそうに呟いて銅貨を置く。酒場は完成したけどちょっと離れたところでまだ仕事してるから、と通ってくれる人を、常連と言わずしてなんというのか。
その後はお客さんの波も落ち着いて、ようやくひと息入れられるな、といすに座る。イスラもアポを取って帰ってきたようで、「エレノアちゃん大丈夫?」と声をかけてくれた。
「ちょっと放心してますけど大丈夫です、ありがとうございます。イスラはいないのかとたくさんの方に聞かれましたよ、すっかり看板娘ですね」
「そ、そうなの? 喜ばしいことかもしれないけれど、お客さまが予想以上にいらしているのね。何かわたしにできることはあるかしら」
「あー……じゃあ、屋根裏のカゴに入ってる服とシーツに、アイロン当ててきてもらえますか? 今日やろうと思ってたんですけど、ちょっと時間とれなさそうで」
わかったわ、とイスラが屋根裏に向かう。洗濯は月曜日に洗濯場に行ってやらなくてはいけないが、アイロンは隣接された小屋にあり、日中ならいつでも使える。家事ひとつとっても不便だが、社交の場にもなるので一長一短だ。西区のご婦人は、南区の方が設備がいいとかでよく来ている。その縁で店に来てもらえたりするので、何事も無駄なことはないのだ。
特におつとめで洗濯に慣れたイスラ相手なら、ご婦人方はこぞって声をかけるだろう。なんせ、家事とは無縁に見える上品な女の子が、迷いなくアイロンを当てているのだから。




