これから得る自由
「イスラさん、私たちに敬語は必要ありませんよ。気軽に接してください」
その言葉に、イスラさんは「ですが」と渋った様子を見せた。お願いします、いえいえそんな、で押し問答になってしまったので、ちょっとずるい手を使う。
「私、ガルニエに来てから同じくらいの年齢の女性と仲良くなる機会なんてなかったんです。だから、友だちのように接してくれると嬉しいんですけど……」
「わ、分かったわ。わたしでいいのなら、なりましょう、お友だちに! エレノアちゃんも、わたしのことはイスラって呼んでね。お友だちだもの!」
ユージーンの「うまく言うようになったな」というからかいは無視する。ライリーも「オレも敬語使われるの苦手」と言っているけど、その目は私にも向いている気がする。
「それで、イスラはどのように働きたいですか? 治癒魔法をお願いするのは前提として、私としてはカウンターに立ってもらいたいです」
「たしかにそうね。お料理はしたことがあるけれど、人と接する方が得意だわ」
治癒魔法士が患者さんと接する仕事だから、というのもあるけど、なによりイスラは人目を惹く。所作がきれいなのだ。
「そういやイスラ、お前住む場所どうすんだ? 寄宿出ねえといけねえんだろ」
「ええと、とりあえずは宿に泊まろうかと思っているわ。お家はその後に探して……」
「やめた方がいいよ。イスラはお金持ちの格好してるから、襲われるかもしれない。というかオレがその立場なら、イスラみたいな人が来たら狙いやすそうだなって思うから」
ライリーの制止が入ったけど、そうなるとイスラは行くところがないらしい。いい宿に行けるお金もないし、家を借りるにも足りない。そうなったら、選択肢はひとつだ。
「しばらくは、お店に住み込みというかたちでどうでしょうか。お金が貯まったら、引っ越せるお家を探しましょう」
「うぅ……何から何までお世話になっているわ……」
「気にしないでください、その分働いてもらいますから」
そうなると必要になるのは、まず寝具。屋根裏を寝室にしているので、わらの束にシーツをかけてベッドにしている。わらもシーツも余りがあるので、作ることはできる。
次に服だ。イスラの服は高級品だから、動き回るのには適していない。仕事着も兼ねて買いに行こうと言うと、イスラは嬉しそうな顔をした。
「お友だちとお買い物に行くなんて初めてだわ。わたし、ずっと黄色のチュニックが着てみたかったの」
なんでも、買い物は今まですべて使用人や直属の宅配サービスで済ませていたらしく、服に至っては親の決めたものを着るばかり。実習で街に出るたびに、同い年くらいの子が色とりどりのチュニックを買っているのをうらやましく思っていた、と。
「お金持ちって生活が楽そうでいいなって思ってたんだけど、なんか窮屈そうだね」
「そうね……でも、不満はないのよ。その分、安全に暮らすことはできたもの。ただちょっと、寂しかっただけよ」
でも、イスラはこれからは自由だ。自分で働いてお金を得て、自分で生活を送る。だから生きたいように生きていいと伝えると、イスラは満面の笑みを浮かべた。
明日から、また店が賑やかになりそうだ。
第五章はこれでおしまいです。次回から第六章に入ります。
五章の更新中に、PVやブックマークが一気に増えました。
多くの方に読んでいただけて本当にうれしいです。
初期の構成時点では、折り返しに差しかかってきたところです。
もしかしたら伸びるかもしれないので、何とも言えませんが……。
完結までどうぞお付き合いください。




