イスラ・センツベリー
あの親子は、学生さんと私に何度も頭を下げて帰っていった。それとちょうど入れ違いになる形で、ライリーが配達から帰ってくる。どうやらさっきの人ごみの外れにいたようで、人波をかき分けようにもできなかったらしい。事の次第は見ていたようだ。
ライリーに荷物を置いてくるよう指示をして、学生さんに歩み寄る。
「ありがとうございました。あなたのおかげで、大事に至らずに済みました」
「いえ、とんでもございません。わたしは大したことはしておりませんから」
そう言ってほほ笑んだ彼女を、改めて見る。さっきまでそれどころではなかったけど、かなりの美人さんだ。肌も髪も、爪の先まで手入れが行き届いている。やっぱり身分の高い家の女性なんだろうなと思っていると、彼女は「あの、差し出がましいことを言うのですが」と言った。
「わたしをこちらで働かせていただけませんか? 今日のようなことにも、対応ができますし」
「いっ……いやいや、お前寄宿学校の学生だろ? ここで働かなくっても引く手あまただろ、どう考えても!」
私が疑問を口にするより先に、ユージーンが声を上げた。学生さんは目線をさまよわせると、「じ、実は」と口を開いた。
「わたしは落ちこぼれなのです。治癒魔法は使えますが、それだけです。丈夫な体にすることも、治ってからの生活を支える魔法も苦手で……ほかの子よりも一年長く在籍していたのですが、つ、ついに、学校には置いて頂けなくなってしまって……!」
涙目になった彼女に、ユージーンは首をかしげる。
「いや、別に治癒魔法士ってそこまでやれる必要はないだろ。落ちこぼれでもなんでもねえと思うけどなあ」
「学校の中では、たしかに人並みの成績を修めることができたのですが……わたしの実家は、地方の領主で代々優秀な治癒魔法士でして。母も治癒魔法士なのですが、母に並び立つまでは帰ってくるなと言われているのです。母はわたしにできないことができておりますから、このまま家に帰っても、勘当されてしまいます……!」
ついには泣き出してしまった。ユージーンをじっとりと睨むと、「俺のせいじゃねえだろこれは!」と喚かれた。
「……まあ、今の時期って卒業とずれてるしな。寄宿学校を出るなら軍医か貴族のお抱えかってなるけど、向こうから声かけてもらえねえとなれねえし。エレノア、そいつほんとに勤め先ねえぞ。余裕があるなら拾ってやってもいいんじゃねえか」
頭を下げる学生さんと、ユージーンの言葉。それらを受けて断れるほど、私は薄情なつもりはない。でも、ライリーの意見も聞くべきだろう。ちょうどこっちに向かってきていたので、意見をたずねる。
「別にいいんじゃない? いいとこのお嬢様なら調理とか掃除とかやったことないかもだけど、これから覚えていけばいいんだし。オレ、ちゃんと教えるよ」
ライリーもいいと言ってくれたので、彼女に頭を上げてもらう。
「エレノア・アルダーソンです。これからもよろしくお願いしますね」
「イスラ・センツベリーと申します。本当にありがとうございます!」




