証明
ガレットが焼きあがる。大きめのものができたので、切り分けてお皿に乗せる。ユージーンがカウンターから外をのぞいて、「できましたよ」と声をかけた。
表に行くと、人だかりはそのままだった。少しくらい帰る人もいると思っていたのだけど、と視線を巡らすと、真っ白な服を着た女性と目が合った。
彼女は軽く微笑むと、一歩前に出る。
「私は、ガルニエ神殿の審問官です。そちらの幼子が神の怒りを買ったにもかかわらず、その事実を否定しているというのは本当ですか?」
「いいえ、事実ではありません。この子は神の怒りなんて買っていませんから。その証明として、このガレットを食べてもらうところです」
審問官は「なるほど」と頷き、群衆に呼びかける。
「かの幼子が、本当に神の怒りを買ったのか。あなたたちには、見届ける義務があります」
よく通る声だった。それに反論する人はひとりもいない。神殿の影響力というのは、私の想像以上だったらしい。
娘さんにお皿を渡す。娘さんは「ありがとう!」と笑顔で受け取ってくれた。あんな症状が出た後でガレットを口にするのは怖いだろうに、申し訳なさがこみあげる。学生さんが治してくれる、という信頼でもあるかもしれない。
フォークでひと口とって、少し冷ましてから口に運ぶ。お母さまは心配そうに見ていたが、娘さんが「おいしい!」と言うと、少し肩の力が抜けたようだった。
娘さんはどんどんと食べすすめる。そしてちょっと残して、眉を下げて私を見た。
「ごめんなさい、もうお腹いっぱい……」
「いえいえ、大丈夫ですよ。無理をしないでください。さっきのようなかゆみや、手足のしびれはありませんか?」
「うん、全然ないよ! それにとってもおいしかった!」
それはなにより、とお皿を受け取る。審問官の方を見ると、学生さんがなにやら言おうとしているところだった。
「もしもあの子の症状が神の怒りだとしたら、わたしの魔法で治せるとは思えません。体に反応は出ておりましたが、病魔の仕業ではないかと思うのです」
それを受けて、審問官は「疑いようもありませんね」と笑う。
「幼子は、神の怒りを買ってはいないのでしょう。不信の徒でもありません。むしろ、我らが神の慈悲深さを疑った者こそ、不信の徒でありましょう」
それでは、と神殿の方向に歩いていく。話の通じる人で良かった。群衆は、自分が疑われてはたまらないとばかりに、そそくさと散っていった。
娘さんが、学生さんに駆け寄る。それに気づいた学生さんは、静かに目線を合わせた。
「お姉さん、助けてくれてありがとう! あたし、お姉さんみたいになりたい!」
学生さんが、静かに目を見開く。そして、「どういたしまして」と娘さんの頭をなでると、泣きそうな顔で笑った。




