ジャガイモ生地のガレット
ハム、たまご、そしてジャガイモ。そして、今日はまだ使っていないフライパンとまな板。今回はそば粉を混ぜるのがご法度だから、細心の注意を払う。
「ジャガイモをスライスして、細切りにします。水気はしっかり切りましょう」
ユージーンがしっかりと手元を見る中、作業工程はどんどん進む。全部のジャガイモを細切りにし終えたので、フライパンに半分だけ敷く。ユージーンがカウンターから外の様子をのぞいていた。野次馬の数は減っていないようだ。結果的にどう落ち着くか、気になっているんだろう。
「ハムと卵を生地で挟みます。あぁ、チーズに変えると罪の味がしますよ」
「これ、他のお客さんにも人気出そうだな」
「お腹にも溜まりますし、大きく作れば切り分けての提供もできますね」
ジャガイモの重ね方でくぼみを作ったので、たまごを真ん中に落とす。そのあとにハムを並べて、上から残りのジャガイモを被せる。あとは、様子を見ながら火を通すだけだ。中火と強火の間くらいで、時短になるぎりぎりの火加減。そこを狙ってユージーンに火をつけてもらう。
「……気になったのですが、そもそもなぜあのような症状が出てしまうのでしょうか」
学生さんから、質問ともつかない言い方でそう聞かれた。ひとり言のつもりかもしれないけど、答えられる疑問には答えたい。
「人によっては、特定の物質に対して免疫が過剰に反応してしまうんです。食べ物だけではなく、金属や動物、植物なんかでも起きてしまいますね」
「……ええと?」
どういうことか分からない、という顔をしているので、かみ砕いて説明する。
「軽いかぜ程度なら、普段通りに生活しても治っていきますよね。人間の体には、ある程度は病気を治せてしまう治癒力が備わっています。病気の原因になるものを攻撃する仕組みがある、ということですね。その仕組みが機能している証拠として、熱やせきといった症状が出てきます」
「症状だけ何とかなっても意味がねえってことか」
「そうなります。実際のところ、治癒魔法士の方は「病魔を追い出す」と表現されてますよね」
「はい、そのように意識しないと再発に繋がりますので」
だからこそ、病魔が見つからない病気には対症療法しかできない、というのが実情なんだろう。
「そんな優秀な仕組みである免疫ですが、時々病気の原因以外のものを攻撃するようになってしまっていることがありまして。それを、アレルギーと呼ぶんです」
「あぁ、なるほど。実在しない敵を見つけ出そうと必死になってる状態ってことか」
「病魔がいないのに戦ってしまう……かなり危険な状態なのですね」
「そのせいで死に至る場合もあります。だから、神の怒りだとか好き嫌いだとか、そんな言葉で我慢を強いちゃいけないんです。自覚なく人を殺せてしまう言葉なんですよ、それらは」
前世でもよく聞いた話だ。世代が上の人ほどそう考えやすいようだったから、この世界でアレルギーに対する正しい知識が浸透していないのも、無理もないのかもしれない。魔法がある関係で、純粋な医療は発展が遅れているようだし。




