啖呵
「なにを、言ってるんですか? そんなことあるわけ……」
「そうじゃなきゃ、ものを食べただけでそんなことになるわけないだろう」
いつの間にか、かなりの野次馬が集まってきている。お母さまを糾弾する声、女の子に同情する声、私たちに気にするなと言う声。喧噪の中で、それらがはっきりと聞き取れた。
冷や汗が流れてくる。私の周囲にアレルギー持ちの人はいなかったと思っていたけど、この反応を見るに周りに隠していたのかもしれない。どちらにしろアレルギーに対する認識が、元々居た世界と大きく違っていることを初めて知った。
顔を青くして涙目になっているお母さまに近づく。ユージーンと学生さんは驚いた顔をして、私の出方をうかがっているようだ。
「お母さまに非はありません! もちろん、娘さんにもです!」
大きな声で言い切る。周囲の人が呆気にとられている中で、お母さまもすがるような顔で言葉を発さないまま立っていた。
「あなたが注文したのはハムエッグでしたね。今まで食べたことがなかった食材はどれですか?」
「えっと、卵もハムも食べたことあるよ」
娘さんの前でしゃがみこんで聞くと、小さい子ながらしっかりとした言葉が返された。では生地かと納得して、同時に寒気がする。ソバアレルギーなら、命を落とすのも珍しくない。
娘さんの手を取り、しっかりと目を合わせる。
「あなたが気にすることはありません。あなたの体に起きたことは神の怒りなどではないし、お母さまのせいでもありませんから」
その言葉に、静まっていた野次馬たちが騒ぎ出す。やれそんなわけがあるか、やれ不信の徒だとやかましい。苛立ちが募ってくる中で、ユージーンが口を開いた。
「うるせえ! この中に審問官がいんのか!」
鶴の一声だった。私は宗教には詳しくないけど、不信だの異端だのの判断は審問官に一任されている、とセシリアさんに聞いたことがある。だから規則を持ち出すのは効果があるのだろうけど、人の心はそう簡単に変わらない。糾弾する声が目線に変わっただけだった。
「……ガレットが食べられないから、神の怒りを買ったのだと、みなさんはそう言いたいんですよね」
確認をとるが、野次馬は誰一人として何も言わない。沈黙は肯定とみなす、というのが、現代日本のお決まりだ。
「つまり娘さんがガレットを食べられれば、みなさんがそのような態度をとるのは言いがかりに等しいはずですよね」
学生さんが、「何をなさるのですか?」と首を傾げる。
「娘さんに、新しくガレットを焼きます。それが食べられれば、何の問題もありませんから」
お客さんに待っていてくださいと伝え、厨房に戻る。学生さんが一緒に行ってもいいかとたずねてきたので、理由を聞き返す。
「わたしは確かにあの子の病気を治せたかもしれません。けれどそれは、症状だけの話です。わたしは、あの子の身に何が起きたのか、そしてどうすれば防げるのかを、きちんと知っておきたいのです」
お願いします、と頭を下げられる。そういう理由であればと彼女を厨房に招き入れ、調理台に食材を並べた。




