アレルギー
三人に商品を提供し、溜まっていた洗い物を始める。店の前で交わされる会話が聞こえた。それぞれ自分で注文したものを食べる中で、雑談に花が咲いているらしい。
「お姉さんは、どこに住んでるの? あたしはねえ、帽子屋さんの裏側でねえ、下に靴屋さんがあるとこなんだあ」
「わたしは、ええと、学校に住んでいましたよ」
「学校? それってどんなところ?」
偶然同じ店に入ったというだけで知り合いになれる。それが相席の良さだと思う。お客さん同士が仲良くなってくれるのは、店主冥利に尽きる。
「学校は……お勉強ができるところです。それから、なりたいものになるための練習もできますよ」
「そうなんだ! あたし、なにになれるかなあ」
ユージーンが続きの洗い物を引き受けてくれたので、カウンターに戻ろう。後で在庫の確認もして、仕入れ量をどうするかを考えないと、と思ったところで、店の前がざわついているのに気が付いた。
「何かありましたか?」
「店主さん! それが、娘が急に口がぴりぴりすると言って、顔が腫れてきて……っ!」
慌ててベンチの方をのぞき込むと、確かに顔や口のあたりが赤く腫れていた。腕のあたりをかいているが、じんましんが出ているのかもしれない。
「すみません、どなたか治癒の――」
「や、やります!」
治癒魔法士を呼んできてくれ、と言うより前に、学生さんが女の子に手をかざした。手の先に淡い光が集まって、だんだんと腫れがひいていく。腕をかく手が止まったので、かゆみも治まったのかもしれない。
光が消え、女の子は「痛いのもかゆいのもなくなった!」と笑っている。その姿を見て肩の力を抜いた学生さんに、お母さまはひたすらに「ありがとうございます」と頭を下げていた。
裏口に回って正面に出ると、ついてきていたユージーンが「で、原因は何なんです?」と聞いた。厨房の方までしっかりと聞こえていたらしい。
「それがよく分からないんです。ガレットを食べていたら、いきなり口周りが……」
「これまでに、こういったことはございましたか?」
「それがまったく……今日が初めてのことで」
お母さまに対する学生さんの問診を聞いてピンときた。多分、アレルギー反応だ。問題は何の食材で起きたか。それを探ろうと口を開きかけたとき、お母さまは私に向き直って頭を下げた。
「本当にごめんなさい、うちの子の好き嫌いで食べ物をダメにしてしまって」
え、と声が漏れる。アレルギーが好き嫌い? 何を言っているんだ、この人は?
慌てて「違いますよ」と否定をする。恐らくは体質の問題で、本人の好みうんぬんではない。そう伝えると、今度は周りから耳を疑う言葉が飛び出した。
「どんな育て方をしてるんだ。そんな小さな子どもが、神の怒りを買うだなんて」




