平穏
カゴを背負って歩くライリーの姿や、セシリアさんと奥さんの口コミ。二つの相乗効果で、家や職場が少し遠い人もお店に来てくれるようになった。その影響か、お客さんから健康に関する相談を受けることが増えてきた。あまりに専門性の高いものには対応できないけど、日常のちょっとしたアドバイスはできる。肌荒れとか冷え性とか疲れやすいとか、やっぱり日々の悩みというのはいつの時代も共通らしい。
今は、以前に来店してくれた寄宿学校の学生さんと、南区内の少し離れた所に住んでいる親子が来てくれている。親子の方は、お子さんの読めない字を読んであげているお母さんの姿が微笑ましい。学生さんは「まだ悩んでいるので」と後ろの人に順番を譲り続けて、だいぶ後になってしまった。たまご以外のメニューを増やそう、と決める。
「ハムエッグのひとつと、タマネギとマッシュルームのひとつ、お願いします」
「はあい、少々お待ちくださいねー」
注文が決まったようなので、厨房のユージーンに伝える。作る間、新しく置いたベンチスペースで待っていてもらう。カウンター横に、日陰になるように作ったのだ。テッドさんから意見をもらったので、さっそく反映させてみた。これで、ふらっと寄るというのもやりやすくなったんじゃないだろうか。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」
学生さんは、メニューをのぞき込んで「これお願いします」とサーモンを選んだ。オーダーを通してベンチへ案内をしようとしたら、「あの」と声をかけられた。
「こちらのお店で、健康が保たれるって聞いたのですけれど、本当でしょうか」
おずおずとそうたずねられた瞬間、やらかした、と笑みが固まった。治癒魔法士からすれば、体の不調を治すのは自分たちの仕事、という自負もあるだろう。現状、医者は終末期医療の専門みたいな扱いを受けているから。治癒魔法士からすれば、この店の存在は面白くないのかもしれない。
でも、ここでごまかしはできない。すでにいろいろな人から感謝を受けているからだ。やましいことでは、ない。
「大したことはできていませんが、ご相談くださる方はいらっしゃいますよ」
「それは、どのようなことをなさっているのでしょうか」
簡単に、食べるもののバランスを整える話をする。学生さんとしては気になることなんだろう、相づちを打ちながら熱心に話を聞いてくれる。
例えとして冷え性と脂質の話をしようかと思ったところで、ガレットが三つ焼きあがった。




