三通りの道
「ガルニエ女子寄宿学校……?」
初めて聞いた話だった。ガルニエに学校があるのは分かっていたけど、それが女子だけの寄宿学校だったとは。
「ああ、治癒魔法士を育てる学校だよ。学生はだいたい地方の金持ちの娘だ。たまに、神殿育ちの孤児もいる。春と大地の女神を信仰してるやつが多いから、さっきの人もそうなんじゃねえかな。あそこの信者、たまご食えねえから」
「そうなんですか」
ユージーンはカウンターに戻りながら、「今の列さばいたら飯食うわ」と言っていった。
治癒魔法士の資格を取るには、学校に行かなくてはならない。この世界の学費は高額で、しかも魔法が扱える人でなくてはいけない。魔法を使える人という条件だけなら、だいたい二割くらいの割合で存在するだろう。でもそこに学費が加わると、途端に条件を満たす人が少なくなる。結果として、教育は高水準に保たれるわけだ。
まさか「学校に行く」というだけのことが、これほど難しいだなんて思わなかった。義務教育を当たり前と感じていたけど、そうなるにも長い道のりを通ってきたんだろう。
そういえば、医者はどうなんだろう。この世界で、医者の立場はあまり良くない。治癒魔法士にかかれない貧民が、最後の望みというように駆け込む場所が診療所だ。
もしかして、あまりきちんとした教育はされていないのかもしれない、とまで考えて、今日は変に頭を使ってしまっているなと目頭を揉む。ただなんとなくぼんやりと、生きることだけを考えてきた弊害だろうか。
いけない、集中しないと。そう思って頭を振っていると、裏口のドアが開く音がした。
「ただいま」
「おかえりなさい。どうでした? お料理が寄っていたりとか、冷めてしまっていたとかはありました?」
ライリーはカゴを下ろしながら「特になかったよ」と言った。そしてお弁当箱を取り出して洗いはじめる。
「行きと帰りの道でさ、いろんな人に声かけられたよ。エレノアの店の子だろ、何してるんだいって。だから、新しいことはじめるよって言っといた。また店に来てくれるって」
「ふふふ、ライリーも商売上手になってきましたねえ」
ライリーが宣伝をしてくれたというのもそうだが、街の人たちがライリーに声をかけてくれたというのが嬉しい。ライリーはいい子だから、お客さんたちにも受け入れられているんだろう。
「それでさ、オレ、エレノアに聞きたいことがあるんだけど」
ライリーはそこで言葉を切って、弁当箱を拭きはじめる。
「なんで、こんな突拍子もない意見を使ってくれたのかな、って」
不思議なんだよね、と言うライリーに、言っていなかったかと記憶を探る。ライリーが意見を出して、ユージーンが賛同して、やり方を考えて……。確かに、考えてみれば言っていなかった。
「私は、より多くの人に健康になってもらいたいんです。お店に直接来られない人にも。だから、ライリーの意見はお店の在り方にも合っていたんですよ」
セシリアさんも、テッドさんも、ライリーのお母さまも。すべての人に健康でいてほしい。それが、三人で働くようになってから持った目標なのだ。
次回から第五章に入ります。




