アイデア
今日はユージーンに、買い出しに行ってもらっている。お弁当に使う箱をどうしようかと悩んでいたら、彼に心当たりがあるとのことだったので、一任することにしたのだ。その分、店は一人で回している。ライリーは今日、お休みの日だ。
「エレノアちゃん、何か困りごとでもあるの?」
お客さんとして来てくれたセシリアさんに、そう声をかけられた。顔に出ていたのかと焦ったが、セシリアさんに「なんとなくそう思っただけだから、違ったらごめんね」と先に謝られてしまった。いえいえそんなことは、と言って、セシリアさんに意見を聞いてみようかと思い立つ。
「あの、ちょっとご意見をいただきたいのですが。温かい箱を冷めないように運べて、重さも大きさもかさばらないような入れ物って、何かありますかね?」
「結構な難題だね……。うーん、一番いいのは金属だろうけど、重さがあれだし」
うーん、とあごに手を当てて考え込んでいる。「温かいもの……冷めないように……」と呟いていたところで、セシリアさんは何かを思いついて顔を上げた。
「そうだ、キルトなんてどう? お茶のポットに被せておくと冷めないし、布だから重さもないよ」
「キルト……ですか?」
「そう。布を重ねて、間に綿を挟んで刺し縫いした生地で袋を作れば、どうかな」
目から鱗が落ちた。そんな手法があったのか。確かに前世でそんなものを見た気もするが、お上品にお茶を飲むような家じゃなかったから、全然思いつかなかった。ここでは茶葉自体が高価なものだから、私にはそもそも目にする機会がない。
「お母さんが最近始めてさ、使いどころがないのに作ってるんだよね。ついでだし、もらってくれないかな?」
「ぜひ買わせてください。これで問題も解決しそうです、ありがとうございます」
「待って待って、お金はいらないよ。本当に置き場に困ってるだけなんだから」
「そういうわけにもいきませんよ、材料やお裁縫の技術にお金を払わないなんて失礼すぎます」
無料でいい、いやよくない、の水掛け論だけど、お金を払わない選択肢はとれない。以前に聞いた、ユージーンの言葉にハッとさせられた部分があったのだ。
お金を払うというのは、つまり敬意の表れでもあるのだと、そう思い至った。
「じゃあさ、エレノアちゃんがやろうとしてることのお手伝いをさせてほしいな。何か新しいことやるんでしょ? もしかしてガレットを届けてくれるのかなって思ったんだけど」
「ええ、はい。その通りです」
「だよね。だからさ、本格的に始める前に、家に届けに来てほしいな。どう?」
それならいいかな、と頷く。一度戻って、セシリアさんが布を持って来てくれることになった。時間としては閉店後になるとのことだ。
そこにちょうどよくユージーンが帰ってきた。手には木箱を持っている。
「おかえりなさい。それが心当たりの箱ですか?」
「おう、ただいま。スライド式の蓋で、ちょうどいい大きさの木箱だ」
たしかに、A4の紙が入るくらいの大きさだ。どこで買ってきたのだろうかと、気になったので聞いてみる。
「羊皮紙を保管するための箱だよ」
まさしくA4の紙が入る箱だった。ユージーン、応用のきく男だ。




