雰囲気
あのあとライリーは前髪を後ろに結んで、さっそく仕事の説明を求めた。一度言われたことを復唱して、間違いがないか確認する姿に安心する。やる気もあるし、覚えもよさそうだ。メモが取れないのは仕方ないが、分からなくなったら私かユージーンに聞けばいい。まじめな子には教えがいがある。
ライリーは普段から家事をこなしているだけあって、かなり器用だった。作業の手際もかなり良い。お客さんに対しての敬語が怪しいというのはあるけど、それだって練習すればよくなっていくだろう。
「いらっしゃいませー……あ、テッドさん。今日はどうします?」
テッドさんはうなぎオムレツを注文することが多いが、ガレットも気に入ってくれたようで、たまに注文してくれる。今日はガレットの気分らしく、メニューを眺めて迷っている。今のところ、ハム系の注文率が高い。
「よし、ハムエッグお願いします。……あれ、お弟子さんですか」
テッドさんは、ライリーを見てそう聞いた。それに対して違いますよと否定をすると、「そうなんですか」と目を丸くした。
「じゃあ、どうしてここに……?」
「お母さまのためだそうで。いい子ですよね」
それを聞いて、テッドさんは頬を緩めた。どこか懐かしむような目をしている。
「母親のために動ける子は、本当にいい子ですよ。ただ、無茶をしやすい子もいますけどね」
はははと笑ってごまかす。とんでもない無茶をしたからここにいるのだとは言えず、商品を渡して代金をもらう。またどうぞと声をかけると、ライリーが「ねえ」と話しかけてきた。
「今のお客さん、仲いいの?」
「テッドさんですか? そうですね、前に看病をしてから、良くしていただいてます。どうかしましたか?」
ライリーは私の質問に答えず、「ふうん」と目線をそらした。何か言いたげな様子だったが、結局「なんでもない」とやめてしまった。
「洗い物と掃除、終わったよ。次は何やればいい?」
「さすが、早いですね。じゃあ、少し休憩をとってください」
ユージーンは水を渡し、そのまま二人で椅子に座った。今並んでいるお客さんで営業時間は終了だし、調理は終わっていてあとは私が提供するだけなので、しばらく二人で話していてもらうとしよう。
商品を渡し、お金を受け取る。私の仕事量自体は変化がないが、調理場の片付けが同時進行になったのはスムーズだ。おかげでユージーンの休憩時間も取りやすいし、回転率も上げられるかもしれない。
「いいか、エレノアの前でたまごを半熟にするなよ。あいつ、めんどくさいくらい怒るからな」
「エレノアってそんなに怖いの?」
「ユージーン! 聞こえていますからね!」
そのやりとりに、お客さんが笑う。空気も明るくなって、ライリーの緊張もすっかり解けたようだった。
第三章はこれにておしまいです。明日から第四章に入ります。
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