願掛け
「エレノアさん、お世話に、なり、マス……」
三日後の朝九時、ライリー君はしっかり店まで来てくれた。清潔感のある服装で来てくれている。今日は調理を任せる気はないが、とても助かる。
「おはようございます、朝ご飯は食べてきましたか?」
「え? いや、食べてないです、ケド」
「じゃあ、まずは軽く食べましょう。初めてのことがたくさんあると思いますし、体力勝負になりますからね。昨日はきちんと眠れましたか?」
ライ麦パンにハムと目玉焼きを乗せ、軽く塩を振る。ついでに、夕飯の残りであるタマネギのスープも飲んでもらおう。どうぞと差し出すと、ライリー君はおずおずと食べ始めた。
「昨日はちゃんと寝た……マシタ。えっと、それで何すれば」
「そうですねぇ、今日はお掃除や洗い物を中心にやってもらいます。でも、他にやれることが見つかればそちらをお願いすると思いますので、今日は流れを見るつもりでいてください」
きちんと飲み込んでから、「分かった。あ、いや、分かりました」と答える。
「ライリー君、私やユージーン相手に敬語を使う必要はありませんよ。それから、さん付けもいりません。お客さんには、その感じでお願いしますね」
「え、でも母ちゃんが、仕事するんだからきちんとしろって」
「はい、基本的に礼儀は必要ですからね。お母さまのご意見は正しいものですから、それも覚えていてください。でも私は、仕事仲間に敬語を使われるのに慣れていないんですよ」
何より、ライリー君自身がやりにくそうだった。気軽に何かを聞くためには、私たち相手に縮こまる要素をなるべくなくしておきたい。
「じゃあ、オレのこともライリーでいいよ。あ、ご飯おいしかった。ありがとう」
「いえいえ、お粗末さまでした。さて、そろそろユージーンが来る頃ですね。まずは、洗い物をする場所から説明しましょうか」
ライリーは静かにお皿を重ねて、流しの方へと向かった。その時にちょうど、裏口のドアが開いた。
「よ、おはよう。なんだよ、さっそくライリーは皿洗いか?」
「おはようございます、ユージーン。朝ご飯を出したので、その片付けですよ」
「おはよう、ございマス。よろしく……」
小さな声で、緊張したようにあいさつをするライリーに、ユージーンはニッと笑う。
「ライリー、ここで働く以上俺とお前は仕事仲間だ。敬語なんか使わなくていい、分からねえことは何でも聞け。俺も知らなかったら、エレノアに聞いてやるからさ」
ライリーはそれを聞いて、嬉しそうにはにかんで「うん」と頷いた。
「……なあ、お前ちょっと前髪長いよな? 見えにくいだろ、切るか?」
「あ……ううん、結ぶよ。その、盗みやってた時に、顔を見られないようにって思って」
そこで言葉を切って、「あの後、母ちゃんに泣かれたんだ」と言った。
「オレがそんなに思い詰めてるなんて思わなかった、言えないような状況にしてごめん、って。もう二度と母ちゃんにそんな思いさせたくないから、きちんと償いが済んだ後に髪を切るって決めたんだ」




