責任
遅いお昼ご飯もすませて、ユージーンも目を覚ました。その間に掃除を手伝ってくれたライリー君と、改めて三人で向かい合って話をする。
「さて、ライリー君。今回のことはお金の話ですので、衛兵に引き渡して自警団に後をお願いするか、弁償してもらうかのどちらかになります。でも、まずは事情を話してもらえませんか? 後のことは、それからでもいいと思うんです」
ライリー君は軽く座りなおすと、重そうに口を開いた。
「……オレ、三年前に父ちゃんが死んで、今は母ちゃんが働いてるんだけど、いっつもオレにばっかり食べさせて、自分のことは後回しにしてるんだ。それで、そのせいか分かんないけど、最近母ちゃんの顔色が悪くて。でもオレまだ十二歳だから働けないし、今の歳じゃ住み込みだって雇ってもらえなくて、それで……」
「で、盗みを始めたのか。ほかの店は?」
「やってない、ここだけ」
それを聞いて、疑問が浮かぶ。
「どうして卵を盗んだんですか? お腹にはたまるとはいえませんし、パンやお肉の方がしっくりきますけど」
「その……父ちゃんが、卵には栄養があるって言ってたんだ」
続けようとしたライリー君にストップをかける。彼は今なんと言った?
「確かに栄養があると言っていたんですか? お父様は生前に何を?」
「医者、だった」
たしか、ここでは栄養という概念は浸透していなかったはずだ。それを知っていたというのは、とても気になる。が、今はそれが本題ではない。ユージーンが咳払いをして、「続けるぞ」と鋭い目でライリー君を見た。
「お前な、盗んだもんでおふくろさんが本当に喜ぶと思ったのか? 息子が犯罪者になって持ってきたものを、笑顔で食ってくれると思ったのか?」
ライリー君は何も言わない。うつむいたままだ。そしてそのまま、小さく「ごめんなさい」とつぶやいた。
「俺は、衛兵に引き渡すべきだと思ってる。いくら事情があっても盗みは盗みだ」
「それは、少し厳しくはありませんか? 私は弁償してもらえればそれでじゅうぶんですよ」
「それはこいつのためにならねえだろ。ここしか盗みはやってねえってなら、なおさらきちんと裁かれるべきだ。そのために法律があるんだからな、許すにも基準をきちんと設けなくちゃだめだ」
ユージーンは譲らない。いつもたいていのことは「しょうがねえな」で許している彼とは思えないほど頑固だ。でも、彼は間違っていない。秩序のためにはそれが一番いいのも頭ではわかっている。でもそれでは、私は納得できないのだ。
「私は、なにも許すとは言っていません。弁償を提案しているんです。盗んだ分のお金を払ってもらえれば、それは売り物ですから」
「いや、原価分の値段だけもらうんじゃ足りない。ほかの客には上乗せして売ってるのに、こいつからだけ原価をもらうんなら、盗んだやつの方が得になる。それはあっちゃいけない」
やまない議論に、ライリー君の顔がどんどんと青ざめる。自分のやったことに対して、実感が出てきたようだった。
「わかりました、ユージーンの意見は正しいです。でも、ライリー君はまだ子どもです。一度、親御さんにお話にいきましょう。お金を出すにしても、親御さんにお願いすることになりますから」
「……そうだな、そうするか。ライリー、お前の家――」
「母ちゃんは関係ないだろ! オレが自分で責任をとる!」
必死な顔のライリー君に、ユージーンはため息をつく。
「関係あるんだよ。子どものお前がやったことは、親が代わりに謝ることになる。それが親の責任だからだ。分かったら行くぞ、おふくろさんにも謝れ、な」
ライリー君は、ぐっと唇を噛みしめていた。




