失うもの
う巻きが飛ぶように売れる。テッドさんが仕事仲間に紹介してくれたのがきっかけらしい。口コミの力、中々あなどれない。評価サイトなんかが無い分、うわさ話が頼りになるのだ。
「うなぎオムレツ三つお願いします。……あれ、今日は男の人お休みなんですか?」
「ええ、ちょっと体調を崩したみたいで。すみません、お待たせしちゃって」
いいんですよ、なんて返してくれる優しいお客さんだ。奥で聞いているユージーンが、これで気を付けてくれたらいいんだけど。
と、ここで店内にある分の卵を使い切ってしまった。どうしようかと考えて、奥に顔を向ける。
「ライリー君! すみませんが、卵を持ってきてくれませんか!」
「……いくつ?」
「六つお願いします。あ、何回かに分けて構いませんからね」
素直に取りに行ってくれたのを見て、お客さんに「あの」と声をかけられる。
「今の子、従業員ですか? どう見ても子どもでしたけど……」
十五歳未満の子を雇うのは法律違反になる。徒弟制度や住み込みの手伝いは認められているので、お金を渡すのがいけないのだ。だからこそ、お客さんもいきなり糾弾することはなく、事情を聞いている。
さて、どうごまかしたものか。弟子です、と言ってしまえば楽だが、本人の意向を無視するのもよくない。
「違いますよ、奥でユージーンの看病をしてくれているんです」
かなり苦しい言い訳だが、事実なのでしょうがない。盗みがどうこうに関しては言いたくないし、と自分を納得させる。
ライリー君が卵を持ってきてくれた。お礼を伝えると、彼は複雑そうな顔で「うん」と言う。そしてそのまま奥に戻っていった。看病もしっかりしてくれているし、案外いい子なのかもしれない。
「はい、お待たせしました。うなぎオムレツ三つで銀貨二枚と銅貨四枚です」
ちょうど今のお客さんが最後だ。閉店の札をかけて奥に戻ると、ユージーンは眠っているようだった。ライリー君は横に座り込んでいる。
「ライリー君、少しお話をしましょう」
*
ふたりでかまどの前に立ち、お湯を沸かす。持ってきたのは卵二つだ。
「うちは基本的に食材は神殿から買っているので、原材料費はそんなに高くはないんです。その分大きな農家から買うよりも品質は落ちてしまうんですけどね」
「神殿から買うと安いの?」
「神殿は、経営のために売っているわけではないですからね。貧しい人には無償で配っていますし、小さな飲食店には安価に提供しているんです。動物や植物のお世話も、おつとめのひとつらしいですから」
お湯が沸騰してきたので塩を加え、静かに卵を入れる。
「卵の値段はひとつで貝束三つです。かなり安いですけど、まとめて購入するので結構な額になります」
貝束は貝を十個つなげて紐で束にしたもので、だいたい十円くらい。銅貨は一枚で百円、銀貨は一枚で千円、金貨は一枚で一万円だ。
「ライリー君が卵を二つ盗んでいったとしましょう。卵だけなら貝束で六つ、そう高いものではありません。ですが、卵がなくなったことでうなぎオムレツが一つ作れなくなると、私たちは銅貨八枚分の儲けを失うわけです」
ライリー君は黙って聞いている。
「銅貨八枚の中には、うなぎや卵の値段だけでなく、ユージーンのお給料や炭代も入っています。もちろん、お城に納める税金もです。ライリー君にとっては卵二つかもしれませんが、私たちにとっては明日がかかっているんですよ」
だから盗むのはやめてくださいね。そう言ってゆでたまごを差し出すと、ライリー君は静かに受け取った。




