二日酔い
はあ、とため息をつく。現在は朝の九時。目の前には、深々と頭を下げるユージーン。
「大変申し訳ございません……」
「まったく……どうして二日酔いになるまでお酒を飲むんですか」
出勤前日の夜にそんな飲み方をするなんて、と思うが、なってしまったものはしかたがない。スポーツドリンクを作って差し出す。
「普段はこんなじゃねえんだけどな……。イテテ」
「水も飲まずにお酒でも飲んだりしました? いつもより強いものを飲んだとか」
「あぁ……水、飲んでねえわ。酒だけかっ食らっちまったし」
頭を押さえているが、自業自得だ。お酒を飲むときは必ず水を飲みながら、が鉄則。おつまみもアルコールの吸収の面からみて重要だ。まあ私の前世は未成年で終わったので、お酒について詳しいわけではないのだけど。
「……たしかリンゴも二日酔いに効いたはずです。裏のタルに入れてあるので取ってきます」
ユージーンを残して裏口に回ると、タルを開けて手を突っ込んでいる少年がいた。
うちのタルに手を突っ込んでいる、見知らぬ少年がいた。
「えっ……ど、泥棒?」
状況が飲み込めず、思わず疑問形になる。そこで少年は私に気づいたのか、弾かれたように走り出す。
「あっこら! 待ちなさい!」
大声を出して追いかけるが、足が速くて追いつけない。まずいと思った瞬間、後ろから追い越される。ユージーンだ。ユージーンは少年を追って角を曲がっていく。ガタガタと大きい音がしたので、ジョギングのペースで向かう。
「捕まえたぞエレノア! 坊主、話は店で聞くからな。……うっ」
角を曲がったところで、吐き気をこらえているユージーンが、少年を抑え込んでいた。
*
「さて、まずはお名前を聞きましょうか。教えてくれますね?」
「……ライリー。ライリー・スミス」
私と少年が向かい合って座る横で、ユージーンは寝転がっている。情けないことこの上ないが、功労者でもあるので何も言わない。仕事はしてくれたのだから。
私とライリー君の間には、彼が盗もうとした卵とリンゴが置かれている。
「ライリー君、なぜ盗みをしようとしたんですか。お金に困っているんですか?」
ライリー君は何も答えない。仕方がないので質問を変える。
「以前から、卵の数が合わないことがあったんです。それはあなたが?」
「……盗んだ」
「どうして?」
ライリー君は泣くのをこらえている顔で、「お金だよ」とつぶやいた。
「オレの家、お金ないから。だからっ……」
「神殿の施しを受けても足りねぇくらいにか? そりゃさすがにねぇだろ」
ユージーンの言葉を受けて、ライリー君が黙り込む。いろいろな事情があるのは分かったが、それで無罪放免とはいかない。私も商売をしているからだ。
とはいえそろそろ開店時間なので、衛兵を呼んで自警団に引き渡すには時間がなさすぎる。
「ライリー君、この話はまた夕方に。今からお店を開けますので、ユージーンの看病をお願いします。お昼ご飯は出しましょう」
「は!? アンタ正気か!?」
「おー、そりゃいいな。んじゃ頼むわ、頭に響くから大声は出すなよ」
意味わかんねえ、と戸惑っているライリー君を横目に、今日も店を開ける。




