第二章・終
「うなぎ入りのオムレツ?」
「はい、新作です。テッドさんに食べていただきたくて。うなぎとたまご、大丈夫ですか?」
翌日、昼休憩中のテッドさんに声をかけた。ちゃんと日陰でパンを食べている。店の方はユージーンに任せて、さっそく新メニューを渡しに来た。水分や塩分もきちんととっているようで、顔色は悪くない。
宗教上の問題はなさそうだが、皿を受け取ってから手が動かない。多分、味を警戒してるんだろう。気持ちはよく分かる。あれが普通の味だと思ってたら、食べたくはないだろう。
「大丈夫です、味はユージーンからもお墨付きをもらいました」
「うーん……。あの人ならおいしくなければスパッと言うか……。分かりました、食べます」
ひと口切り分けて、一気に口に入れた。しばらくは静かに噛んでいたが、少ししてから表情がぱっと明るくなった。
「うま……! なんか、甘いですね! これ本当にうなぎなんですか?」
「正真正銘のうなぎですよ。タレの味がついてるので、臭みは感じないはずです」
テッドさんはガツガツとオムレツを食べていく。とてもおいしそうに食べる人だな、と気分がよくなる。その顔が見たくて飲食店をやっているのだ。
「はー、あっという間に食べちゃったな。あの、これおいくらですか?」
「あぁ……サービスです。試作品なので。今後お店に来ていただければ、それで」
「いやいや、そういうわけにも。……あー、分かりました。また行きますね」
私が折れないことを察して、彼は穏やかに笑った。空になったお皿を受け取ると、テッドさんは「ひとつ聞いてもいいですか」と言った。
「エレノアさんたちは、どうしてここまでしてくれるんですか?」
感謝はしてるけどなぜなのかがわからない、と。そう言われても、困っている人がいたら力になるのは当然だと思う。手の届く範囲の人ならなおさらだし、自分が追い込まれることもないのに渋る理由もないと思う。そう伝えると、テッドさんは遠い目をして言った。
「みんながみんな、エレノアさんたちみたいに優しいわけじゃないですから。もちろんいい人も多いですけど、少なくとも、俺が育ってきた場所はそうじゃなかったんで。……すごくいいと思います、そういうの」
その目に、私は何も言えなかった。
*
「お、戻ったか。どうだった?」
ユージーンに迎えられる。お客さんの波はちょうど落ち着いたころだった。結果自体は良いものだったけど、私の気分は少し晴れない。
「ユージーン、人が人を助けるのは、当たり前じゃないんでしょうか」
私の問いに、ユージーンは「そうか」とつぶやく。
「当たり前のことを当たり前にするのは、とんでもなく難しいことだ。お前みたいなやつがいれば、そうじゃないやつもいるってことだな。まあ、人それぞれできる限りのことをやればいい」
そうですね、と答えつつも、心には陰が残っていた。
第二章はここまでです。次回から第三章に入ります。
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