今後のこと
結局のところ、睡眠不足と直射日光が原因ということだった。ユージーンに叱られて縮こまった彼は、小さく「すいませんでした」と謝っている。
「まあまあ、ユージーンも落ち着いてください。原因が分かったのだから、あとは対策もできますよ。休むときは涼しい場所で。日中に体力を使うときはしっかりと眠る。水分補給は塩分も一緒に。ね、これで解決でしょう?」
ユージーンは溜息をひとつこぼして、「まあな」と頭をかく。
「とにかくだ、自分のことは自分で気を使え。周りは平気そうだからとか考えるなよ、お前の基準で考えろ」
「は、はい! わかりました!」
いい返事だ。体調不良で他人を基準にしていたらキリがない。我慢は体に良くないし、その結果が今日の状態なんだから、これからはほどほどを心がけてもらおう。
「それじゃあ、俺、帰ります。あの、本当にありがとうございました」
「大丈夫か? なんなら送るぞ」
「いえ、平気です。……今度はガレット食べにきます」
そう言ってテッドさんは帰っていった。本当に大丈夫か気になるところだが、あまりしつこく食い下がるのも迷惑かもしれない。
「ま、北区の長屋ってことはそんなに離れてもないし、人通りも多いし。よく眠れたみたいだし問題はねえか」
そうこぼしたユージーンに、ひとつ疑問をぶつける。
「そういえば、ユージーンはどうして処置ができたんですか? ガルニエでは対処法なんてあまり周知されていませんよね」
ユージーンはきょとんとしたあと、「ああ」と頷いた。
「俺、ガルニエの出身じゃねえからな。リシャールっていう、南の港町の生まれなんだ。知ってるか? 太陽と月の神が生まれた海のあるところだ」
「聞いたことがあります。夏はかなりじめじめすると……あ、そっか」
リシャールの町は、太陽と月の神が生まれてから最初に足をつけた地と言われている。気候としては温暖で、海の影響もあってか湿度が高い。観光地としても人気が高く、富裕層のバカンスとしては定番、らしい。
ユージーンがそこの出身なら、今日のガルニエよりも熱中症になりやすい環境で生きてきた、ということだろう。そりゃ手慣れてるわけだ、と納得する。
「まあ、リシャールじゃ海も川もでけえからな。湿気にやられるやつは珍しくなかったんだ。大体が塩舐めてなかったり前日に寝てなかったりしたもんだから、そんなやつは大馬鹿だって近所のばあさんによく怒られてたぜ」
遠い目をするユージーンに、ふと思いつく。そんなに熱中症が発生するなら、対策として食べられる食品もあったんじゃないか? 気になって聞いてみると、ユージーンは何でもないように答えた。
「ああ、うなぎだな」
「なるほど、うなぎ……え、うなぎですか!? 高級品では!?」
「なんだよ、定番だろ。うなぎのゼリー寄せ。川のある地域じゃそう高いもんでもねえぞ」
オルコットには自然の川がない。生活用水は井戸から汲んで、人が作った用水路に流していた。だからうなぎなんて高級品だったし、発想もなかった。なんか和食のイメージも強かったし、西洋っぽいここにはないものとばかり思いこんでいた。
しかし思い出した。確かにあったのだ、うなぎのゼリー寄せが。イギリスの郷土料理だったと思うが、……うん、なんせイギリスの料理だから。いや、イギリスが悪いわけじゃないと思う。スコッチエッグとかおいしいし。
「ちなみにそれっておいしいんですか?」
ユージーンが黙って目をそらす。そんなことだろうと思った!




