応急処置
セシリアさんが戻ってきた。相当急いだようで、バケツの中の水が波打っている。
「おっ、おま、たせぇ……!」
ぜえぜえと息を切らしているが、前ならとても走れなかったであろう距離と重量だ。セシリアさんにも中に入ってもらって、休んでもらうことにする。
ユージーンに布巾を5枚投げると、「さすが」と笑って濡らし始める。ユージーン、相当手際がいい。
「お、水がちゃんと冷てぇな。セシリアさん、急かしてすみません。おかげでこいつ、助かりそうです」
「ほん、ほんと? いや、それなら、よかったよ」
額、脇、股関節、と濡れ布巾を置いていく。その間に、追加の経口補水液を作っておこう。ちょっとぬるいのは気になるが、飲み水は煮沸してから、が鉄則。そこから冷ますのはともかく、冷やすことはできない。私が氷とか水とかの魔法でも使えればよかったんだろうけど、ないものはしかたがない。できることをするだけだ。
バタバタと足音がする。職人さんが、治癒魔法士を連れてきた。以前もお世話になった魔法士さんだ。
「暑さにやられてしまいましたかね? 幸い意識の混濁は見られませんし、体を冷やしましょう」
体の前で両手をかざすと、私たちの方にも冷気が流れてきた。存在しないからとあきらめていたけど、こうして恩恵にあずかってしまうと、どうにもエアコンが欲しくなる。この際もう扇風機でもいい。もしくは冷凍庫、アイスが食べたい。
涼風に作ったドリンクを当てていたら、ほんの少しひんやりしてきた。
「はい、もう大丈夫でしょう。体内のバランスも整えましたが、これは応急処置が適切だったのでしょうね。すぐに回復するかと」
お代は今度で構いません、と魔法士は帰っていった。テッドさんは立ち上がってお礼をしようとしているが、ユージーンが押さえている。まだ寝とけ、と額の布巾を冷やしなおしている。
「それにしても、休憩もしてたし水も飲んでたのに倒れたって、なんでかなぁ」
「それですよ、セシリアさん。水しか飲んでないのが問題なんです」
私ではなく、ユージーンが答えた。手は止めていない。
「詳しいことは分かりませんが、汗かいてるのに塩を補給してないのがよくないらしいです」
ようやく私の方を見る。補足しろ、ということらしい。
「大量に汗をかくと、体内の水分量が減ってしまって、体温が上がってしまうんです。さらにその後に水だけを飲んでいると、今度は塩分濃度が低くなってしまうんです」
「そうなんだ……。塩水飲めばいいってこと?」
「うーん、あんまり濃すぎると、かえって水分不足になっちゃいますから。コップの水に塩ひとつまみくらいでじゅうぶんですよ」
「キュウリに塩まぶして食えばいい。緊急時でない限りはだけどな」
確かに有効だ。実際にマルシェでは、水分補給の特効薬のような扱いで売られていた。日本の夏の風物詩だと思っていたけど、どうやら異世界でも同じようだった。




