熱中症
セシリアさんにお水をサービスすると、ありがとうと受け取るや否や、一気にコップが空になった。
「はぁ、生き返るぅ! このあたりってどうしても途中で影が途切れるから、ほんと頭おかしくなりそうなくらい汗かくんだよね」
「においとかも気になりますよね、やっぱり。私としては、食材が早く傷んじゃうのがどうにも困ります」
だよねえ、と談笑しているところに、ユージーンが近付いてくる。もう交代でいいのだろうか、と顔を見たとき、「なあ、あいつってずっとあそこにいるか?」と指をさしながら聞かれた。その先には、左官職人の青年が立っている。一心に仕事をしているが、それがどうかしたのだろうか。
「ずっといるんだな。分かった」
そう言うとユージーンはカウンターを飛び越えた。……え、飛び越えた!? なんで、と混乱していると、ユージーンは青年の腕を掴む。
「なあお前、ちょっと休め。いくらなんでも汗かきすぎだ、死ぬぞ。おい! こいつ借りんぞ!」
そう叫ぶと、青年を連れてうちの店に入る。青年は仕事の最中だというのに抵抗するそぶりもなく、目の焦点もなんとなく合っていない。これはまずい、と寝かせられるスペースを急いで作ることにする。
「よし、エレノアはすぐに水と塩混ぜろ。セシリアさん! すみませんがバケツで冷たい水汲んできてもらえませんか!」
「わ、分かりました。すぐ戻ります」
よくわかっていない顔のセシリアさんにバケツを手渡す。一応、私たちの表情からただごとではないと察してくれたようだ。最寄りの井戸に走っていった。
私はすぐに水がめから多めに水を汲み、塩とはちみつ、レモンを用意する。
「お前、名前は? 歳は言えるか? 住んでる場所は? 仕事は何やってる?」
「え……? 名前はテッド、歳は20……。北区の長屋に住んでて、仕事は左官だけど……」
「よし、意識ははっきりしてるな。脈は……ちょっと速いか。おい、頭痛は?」
「少し……。あと、気分が悪いっていうか……」
容態を確認している間に、テッドさんの服を少し緩めているのが見える。その後、仰向けに寝かせている。
私の方も急いで水に塩とはちみつを入れ、よくかき混ぜる。水500㎖に対してはちみつが大さじ1、塩が1.5gの割合だ。そこに少しレモンを絞る。
「適度に休んでたか?」
「休憩もしてましたし、暑いんで水も飲んでましたけど……」
「ばかやろう、汗ってのはしょっぱいだろうが。塩も舐めろ」
的確だ。テッドさんが大の字になったところで、ユージーンがカウンターから顔を出した。
「そこの作業中の茶髪の職人さん! 治癒魔法士呼んできてください、緊急で!」
そうしてすぐに奥に戻る。ユージーンが名指しした職人さんは、状況が飲み込めないながらも、すぐに治癒魔法士のもとへ向かう。
「むちゃくちゃだなぁ、その人多分、俺の上司ですよ」
「知ったことかよ。誰にとっても、お前が死ぬよりマシだろうが」
ユージーンに完成した経口補水液を渡す。「おし、ありがとな」と彼はすぐにテッドさんの頭を起こして飲ませ始めた。
「あ、おいしいです、これ」
「……それがおいしいって、相当ですよ。普通はまずくて、飲めたものじゃないんですから」
日本において、そのまずさは広く知られるところだ。おいしく感じたら危険、と言われるほどに。




