平民
ポリアンナの魔力の多さは、わかる人間にはわかってしまう隠し切れない事実であるが、ポリアンナ自身の知識と言う意味での成績は常に中位を保っている。
ただし、魔法陣の成績だけは飛び抜けてよかった。
その魔法陣クラスを担当しているのはサミュエル先生ではなく、いつもこちらに白い目を向けてくるアマリオ先生だ。
だが先生がどんなにポリアンナを気に入らないとしても、差し出された魔法陣の質の良さは、教師として無視できるレベルではなかったようだ。
その目的や用途がとてもくだらない内容だったとしても。
「おお、やっと来たか。お前また実験室にいただろう」
「居たよー。あ、そうだ。サミュエル先生、コーネリアは伝書鳩じゃないからね!」
「しょっちゅう一緒にいるんだから、あの子に聞くのが1番早いんだ。それで、今は何を作っとる?」
「今はねー、文化祭の出し物を作ってるよー!」
教師たちの机の合間を縫って、サミュエル先生の指定席になっているソファまでやってくる。
「ねぇ、サミュエル先生に呼ばれたって聞いてきたんだけど、なんだろう?新しい山羊皮のコートのご注文ですかぁ?毎度ありがとうございまーす!」
「いや、待て!今から夏に向かうのに、山羊皮のコートはいくら何でも早過ぎる!」
いつもだったら、ノリで買ってくれたりもするが…流石に季節の先取りが過ぎたか!?
「そうではなくてな、魔法陣の話だよ。こないだお前さんが作った岩を粉砕する魔法陣があっただろう?」
「ん?粉々一発?」
「そう、何だその適当な名前は?そんな名前をつけたんか、おまえさん?」
ポリアンナが魔法陣にハマってから、いくつもの新しい魔方陣を作ってきた。その大半は、非常にくだらないものが多く、何に使うのかよくわからないものが多くあった。
一方で、既存の魔方陣をより使いやすく、例えば小さな魔力で稼働するとか、もうちょっと使い勝手の良いような改善をするとか、そんなのも得意だった。
サミュエル先生が話しているこの魔法陣は、先日魔石発掘の課外授業で、大きな岩を砕く必要があった時に爆誕した。
既存の魔法陣があまりにも派手に岩を飛び散らすので、ポリアンナが地味に改良したのだ。
つまり、岩を小石レベルまで小さく砕く上に、飛び散らずに下に落ちるだけ、という非常に地味な粉砕魔法陣に改造した。
結果、中にある魔石まで粉砕してしまい、小さな魔石しか取れなかったと散々文句をいわれてしまった。
「あれなぁ、軍が使いたいと言って来とるのだよ」
「え?軍事利用ですか?私の魔法陣ちゃん、何に使われちゃうの?」
「いやいや、軍と言えば軍なんだけどな。何でも道を作るとかって言ってたぞ。今までのやつだとでかい岩を砕くのに毎回大爆発が起こってしまって、後がえらい大変だったらしいが、お前さんの作った魔方陣を使えば、そのまま道に敷く砂利として使えるとかでな」
「わかる!それで改造したんだもん。まぁ、道作るならいいよー。うちの商隊も通らしてもらうだろうし」
「権利はどうするかね?丸ごと国に売るか?使用許可だけにしとくか?」
新しい魔法陣を開発すると、概ね3〜5年間ほどは開発者に所有権が生まれる。
利用するのは許可制となり、そこに利用料が発生するか、魔法陣の権利をまるまる売るなり、譲渡するなりしないと、それを利用することができないというルールが存在するのだ。
「軍かぁ。いちいち使用許可出すのめんどいから、売っちゃおうかな」
「学校に任すか?おまえさんなら、実家に任す手もあるぞ。おまえの家の親父さんなら上手いことルヴィルの家の実績にするだろうよ」
「そうね、先生、さすが!ここでパパに恩を売っておくのもありよね!」
「恩とはなんだ。たまには親孝行してやらんか」
あははは!
ポリアンナが軽快に笑う。
貴族の令嬢は決してこういう笑い方をしない。令嬢みたいになってたまるか!ポリアンナは平民だもの。
…メリッサ様も、歯を見せて笑ってたような気もするけど。




