拉致
ポリアンナは王宮魔術師になるつもりはなかったが、レオンハルトは王宮魔術師を希望していた。
魔力操作、魔力量、魔法陣の知識と構築についても師匠の合格ラインだということで、以前から王宮魔術師の人生をしていたが、この度漸く王から正式にその認定が降り、就任のために王宮を訪れていた。
ポリアンナは魔法爵かつ筆頭魔術師の弟子ではあるが、王宮魔術師でも希望者でもそもそも貴族でもない。
だから、王宮に足を踏み入れていいのか、いつも迷うが、レオンハルトは子爵家出身なだけあって、迷いなく王宮の中を進んで行く。
陛下の御前で王家と王国への誓いを述べて、王宮魔術師の魔法陣が付与される。それは左手の甲に刻まれて、消えた。
ポリアンナは初めて見た。
師匠もメリッサ様も、その魔法陣を左手に刻んでいるのだろう。
「ポリアンナさんは何故、宮廷魔術師にならないのです?」
レオンハルトはじつに不思議そうな顔で尋ねる。
「平民が王宮魔術師になれないということはないはずです。必要なら養子縁組をすれば良いですし、ポリアンナさんを欲しがる貴族家は多いと思いますよ」
ええ、ええ、多いですよ。なんなら、いまだに、遠回しに来ますよ、そんな話。
レオンハルトの純粋そうな目に、ポリアンナはウンザリする。
そろそろ仮婚約を結んでから5年が経つ。
ディプソーからは、魔法の手紙のやり取りが続き、今は敗戦国となったフェンスベリアで動いている。
まだまだ不安定な土地で、けれども不安定だからこそ、そこに商機があるんだそう。
すっかり文通相手となったハリソンは、そろそろ帰国するはず。帰国をすれば、会いにくるだろう。
そんな事を考えていた。
そんな事、考えている場合では無かった。
王宮のど真ん中だよ?
師匠が、目の前で攫われたのだ。




