曽祖父
「おおお!来よった来よった!ポリー、お姉さんになりよったなぁ!」
寝台のうえから声ばっかりが元気なおおじいじが手招きする。
横に立っていた青年が二歩ほど下がって、寝台のそばを開けてくれる。
「おおじいじ、風邪引いたの?」
ポリアンナの頭を引き寄せてグッチャグチャに掻き回す曽祖父のされるままになる。
「まぁ、ちょいと雨に打たれてなぁ」
雨に濡れたって、温風を浴びてすぐに乾かせる曽祖父の筈だが、何かあったのだろうか。
「ウチの商隊の救助に尽力いただきました際に、体調を崩されたのです。私どものために、申し訳ありません」
隣の青年が丁寧に頭を下げた。
「おお、もう、お前さんは良いんだよ。親父さんにも気にするなと伝えてくれ。雨に濡れたら誰だって風邪ぐらい引くだろう?」
「せめて、医師の手配だけでもさせてください。こちらの家の薬師すら断られていると聞きます」
え?
「おじい、薬飲んでないの?」
ポリアンナの頭を掴む手が熱い。
「医者も薬も大嫌いじゃ。ジイはそうやって生きて来たんだ。コレで命がなくなるなら、そういう運命なんじゃろう。もう十分に生きたしな。まだ生きろと運命がいうなら、なんもせんだって、風邪くらい治るさ」
言い出したら聞かない曽祖父のセリフだ。 だが、おじいがいなくなるのは困る。気持ち的に、すごく困る。
頭の中で、幾つもの魔法陣が浮かんでは消えていく。
どうすれば良い?風邪の時って熱を下げたほうがいいの?それとも暖かくしたほうがいいの?
「なんじゃ。おまえ、なんだかグルグル考えとるな?」
おじいがペシッとポリアンナの額を叩く。額に刻まれた魔法陣がシュルッと反応して、おじいの魔力をちょっぴり吸いとった。
「お?なんだ???」
耄碌してるフリをしても元王宮魔術師の曽祖父は魔力を持って行かれたことに気がついたようだ。
そして、涙を浮かべる曾孫娘に、困り顔で笑う。
「ジイはもう充分に生きたんだよ、ポリー。レイラだって、もうおまえたちのお母ちゃんとしてしっかりやっとるし、おまえの父ちゃんは信用できる奴だって、もうジイには充分に分かっとる。だから、ジイはもういなくなっても大丈夫なんだよ」
「そんなの嫌だよ、おじい。ポリーの魔力あげたら、頑張れる?」
ポリアンナの申し出に、曽祖父はワハハと笑う。
「そりゃあ、光栄な申し出だぁ。
しかしまぁ、おまえさんの魔力は、お前さんのダンナにおやり。ダンナの顔が見れないのはチッと残念だがなぁ」
細い腕がポリアンナを抱き寄せる。
「お前さんは、ジイの自慢の曾孫娘だ。お前さんが頑張っていれば、ジイは満足じゃよ」
おおじいじの魔力が、尽きようとしている。




