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8 カタリナの態度の理由

アルシオンより一足先に選手控室を後にしたカタリナは、モヤモヤする気持ちを抱えながら、学院の廊下をずんずんと歩いていた。



(何よもう『ジャムの君 』 『ジャムの君 』 って!!五月蝿いのよ!あの唐変木は!!)


別に"ジャムの君"が悪い訳じゃないし、嫌いな訳でもないが、あのデリカシーの欠片もない婚約者に腹が立って仕方がない。



「………………辺境伯の妻には強い女が相応しいって言ってたくせに…。」


カタリナはポツリと呟く。

段々と歩くスピードは遅くなり、廊下を進む足取りはカタリナの気持ちを表すように、ゆっくりと重たいものへと変わった。



小さい頃、カタリナはノクスに辺境伯の妻に必要な事は何かと尋ねたことがある。

幼心にも辺境伯子息の婚約者として、将来の辺境伯夫人となる自覚のあったカタリナは、木剣を振り回して遊ぶノクスに質問した。


『辺境伯の妻として相応しくなるには何が必要ですか?』


質問をされたノクスは小首をかしげながら少し考えた後答えた。


『……う〜む、この辺境伯領は魔族と戦う土地だからのう…弱々しいより強い女がいいのではないか?うむ!辺境伯の妻には強い女が相応しいだろう!わしも弱いより強い女が良い!!』


その頃はまだ(いか)つさなど微塵もない、子供らしい丸みのある無邪気な顔に、満面の笑顔を浮かべてノクスは言った。


だからカタリナは魔力の訓練を始めた。


魔力が使えるようになり、身体強化が出来るようになると辺境の見習い騎士達に混じり訓練までするようになった。


段々と年頃になり、通常令嬢には淑やかさや儚げな可憐さが求められるのだと知ると、不安になって念の為ノクスに『辺境伯夫人が本当に強い女でいいのですか?』と確認を取った。


『?弱いより強い方がいいに決まっておるであろう?何故そんな質問をするのだ?』


心底分からないと言う顔をされたので、安心してもっともっと強くなるべく見習い騎士達との訓練に力を注いだ。


だというのに、3年程前から"ジャムの君" から支援品のジャムや砂糖漬け、ピクルスなどが届くようになると、その味の虜になったノクスが言ったのだ。


『はぁ…………旨い!何て旨いのだ!!このように旨いジャムを作れる"ジャムの君"の夫君になれる者は、さぞ幸せであろうなあ!()()()()!』


いくら甘い物に目がないとはいえ聞き捨てならない。


『それほど羨ましいと思うのであれば、婚約者を"ジャムの君"に変えて頂いたら宜しいんじゃありませんか?……私はそれでも構いませんけど?』


ジト目で言うカタリナの言葉にノクスはキョトンとした。


『 は?"ジャムの君"にか!?』


婚約者の変更など考えたこともなかったと驚いた様子のノクス。


だからほんの少し溜飲を下げたのに。


『うーむ……()()()()それは無理であろうな……。

"ジャムの君"は既に、さる公爵家の令息と婚約されているらしいからのぅ。』


()()()()………。)


『残念なのか……』とカタリナの心は凍てついたように冷たくなった。


その日からだ。カタリナがノクスに冷淡な態度を取るようになったのは。


カタリナの変化の原因に見当もつかないのか、困惑した表情を浮かべるノクスがこれまた腹立たしかった。


以降カタリナは辺境の見習い騎士達との訓練に混じるのを止めた。


王都にあるこの学院の淑女科へ通うようになり、騎士と名のつく物には一切関わらないように努めた。


離れて行くカタリナに対し、何も言わないノクスに益々腹が立った。



それでも………………魔力の鍛錬だけは続けた。



「馬鹿………………………。」


ノクスに向けたものなのか、自分に向けたものなのか、カタリナは呟く。



行き先の目的もなく廊下を進み抜ければ、いつの間にか学園の庭園へと道が開けていた。


色とりどりに咲く花々は美しく、辺境にはない鮮やかな景色にほんの少し心が晴れるような気がした。


しかしそれも束の間、会いたくもない集団が目に留まり、カタリナは目をスッと細めた。


カタリナの目の先には『お前本当に学生か?』と聞きたくなるような学生用の騎士服にゴテゴテとした装飾品を身に着けて着飾った数人の男子生徒と、その男子生徒達を取り巻く様に群がるド派手なドレスを身に纏った令嬢達。


キャッキャ ウフフ と頭の中までお花が咲いていそうな笑い声を響かせる彼等。


見つかる前に退散しようとドレスの裾を翻そうとしたが、残念ながら一歩遅かったようだ。


集団の中でも一際綺羅びやかな人物に目敏くも見つかって声をかけられた。


「おお、これは我が『学院の天使』カタリナ嬢ではありませんか。このような所で麗しい貴女にお会いできるとは、どうやら私は今日の運を使い果たしてしまったようですね!」


大仰(おおぎょう)な台詞と芝居がかった動作で近づいてくる男子生徒は、学院の騎士科に通うケビン・ドロフス。

金髪碧眼の甘いマスクの彼は王国の騎士を数多く輩出してきた名門ドロフス侯爵家の嫡男で、王国騎士団の重鎮である父を持ち、母もまた有力な武門の家柄出身で彼女の叔父は近衛騎士団の師団長を務めている。

将来は王国騎士団の未来を背負って立つ男だと大注目のサラブレッドだ。

顔、家柄、将来性と三拍子揃っている彼は学院の中で王子様扱いで、誰もが彼に気に入られようと必死だ。


しかしカタリナは彼が大嫌いだ。


只でさえ騎士科の学生とは関わり合いになりたくなくて避けているというのに、『学院の天使』として人気のあるカタリナを自分の取り巻きに抱き込もうと、暇を見つけてはちょっかいを出してくる。しかもカタリナには婚約者がいると分かっていながら、隙を見ては手を握ろうとしたり、肩に触れてこようとしたりとするからだ。


特に剣術大会に出場する為にノクスが学院に編入して来て、カタリナの婚約者が辺境伯子息であるノクスだと知ってからは、事あるごとに粉をかけてきて鬱陶しいことこの上なかった。



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