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4 魔力

魔力はどんな人間にも備わっている。


しかし使いこなすためには幼い頃からコツコツと努力し続けなければならない。

その上努力を積み重ねても、大した力を発揮出来ない場合がほとんどで、ロウソクの火を消す程度の風や、ほんのり体を発光させるなど微々たる力しか発現しない。 

おまけに魔力を練る鍛錬を怠れば、魔力の回路は瞬く間に消滅し使えなくなるという代物だった。

中央貴族達の間で、魔力が忘れ去られていったのは、努力の割に見返りが少な過ぎて割に合わないからに他ならない。

魔族や魔物等の脅威に晒される辺境と違い、危険などない土地で暮らす中央貴族達にとっては、習得するだけ無駄な力なのだ。


それなのに、地方貴族である比較的安全な子爵家の領主であるアルシオンがコツコツと幼い頃から魔力の鍛錬を積み重ねて習得し、今も弛まぬ努力を続けていることに素直に感嘆し、尊敬の念を抱く。


「………有り難うございます。カタリナ嬢に褒めて頂けると、頑張ってきて良かったと思います。」


カタリナの真摯な眼差しを受けて、アルシオンが照れたようにふわりと優しい笑みを浮かべた。

その穏やかな微笑みにカタリナの心がポッと温かくなる。


それなのに


「おいアルシオン、カタリナの言葉に騙されるなよ。

俺の事をゴリラなんて言っているが、俺がゴリラならコイツは女ゴリラだ。

ちょっと前まで、辺境で見習い騎士達の訓練に混じって、魔力の弱い奴等などゴミを見るような目で、片っ端からぶん殴ってたからな。」


ノクスの言葉にキッと眼尻が上がる。


「えっ?カタリナ嬢も魔力が使えるのですか?」


アルシオンの言葉にハッと息を呑む。


「使えるも何もカタリナは土属性の魔力の使い手だ。少なくとも王都の騎士達位なら簡単にのしてしまう位には強いぞ。」


『このクソゴリラめ余計な事を!』と思いながらカタリナはハラハラとした気持ちでアルシオンを見た。


一般的に令嬢は美しく優雅で、儚げな、思わず守りたくなるような女性が理想とされる。

この傾向は王都に近づけば近づくほど顕著で、令嬢の身で強いなど、考えることすら憚られた。


アルシオンにはそんな偏見などないと思うものの、嫌われたらと不安な気持ちに瞳が揺れる。


アルシオンは少し考えると


「なるほど……カタリナ嬢もずっと努力して魔力を習得されたから、僕が努力してきたと分かって認めてくれたのですね。

女性の身で、見習いとはいえ辺境の騎士達と戦える実力だなんて凄いです。

……………僕の方こそ貴女を尊敬します。」


にっこりと満面の笑みで微笑まれて、カタリナは腰が砕けたようにヘタリとしゃがみ込んだ。


(あああああああ…………尊い!)


日頃、辺境のゴツく厳ついデリカシーなど欠片もない騎士達に囲まれて、王都に出て来たら来たで今度は嫌味ったらしくて軟弱な中央貴族の令息達ばかりの環境だった。


そんな男共とは一線を画すアルシオンはカタリナにとって癒しのオアシスだ。


目にハートを飛ばすカタリナに、婚約者であるノクスはムッとした視線を送る。


「そなた……誰の婚約者なのかちゃんと分かっておるのか?」


「分かっておりますので、憂鬱な現実に引き戻さないで下さいます?」


にべもないカタリナの態度にノクスは『はあ…。』と大きくため息を吐いた。


「そなたがわしを気に入らないのは知っておるが、その態度はどうにかならぬのか?」


「婚約解消を言い出さないだけ、努力しておりますわ。

私にご不満があるなら、辺境伯様と私の父に言って婚約を破棄するなり解消するなり働きかければ宜しいでしょう?」


「……………………。」


「あ…の…えっ…、と……。」


二人の険悪なムードに、アルシオンはどうしたらいいのか分からないと言った様子で、キョロキョロと二人の間を交互に視線を彷徨わせた。





カタリナとノクスの婚約が成されたのは、互いの両親が親友だった為だ。


辺境にほど近い領地を持つカタリナの父は、辺境での戦いにも参加したことがあった。

そこで出会った若かりし頃の辺境伯と意気投合し、戦場でノクスの父がカタリナの父の命を救ったことから、お互いに子供が生まれたら結婚させようと約束して成された婚約だった。


その為に二人は小さな頃から交流があり、子供の頃は幼馴染としてそれなりに仲睦まじくやっていた。


恋人のようにとは行かなくとも、つい数年前までは辺境の守護の為土地を離れられないノクスの為に、カタリナが辺境を訪れては共に鍛錬に勤しんで、交流を重ねてきた。


傍から見ても良い関係を築いていたはずだったのだが………


「はあ………いつからこんなに拗れてしまったのやら…。」


ため息を吐いたノクスにカタリナはフンと鼻を鳴らす。


(誰のせいだと思っているのよ…。)


という言葉は呑み込んだ。




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