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17 勿体ない

「何だって俺があの馬……ケビン坊ちゃんの付き添いなんてやんなきゃならないんですか?

ケビン坊ちゃんの周りには既に名家の子息達の生徒が補佐についてんじゃないんですか?

俺が付き添う意味あります!?」


「ケビンはじめ騎士科の生徒達はどうにも頼りなくてね。

魔獣は弱らせてから出す予定だけど、彼らだけに任せるのは無理そうなんだ。

だから腕の立つ騎士を付き添わせろとのお達しでね。

………………君なら安心して任せられる。」


「俺は一ミリも安心出来ませんけどぉ?」


平民出身ながらに騎士となり、左遷されてもここ北方近衛師団の副師団長の地位を得ているのは、ストーンがそれだけ剣技の腕に()けていたからだ。

単純な強さたけならば、魔力の使えるイワンよりも上だった。


「平民出身の俺が貴族のお坊っちゃん方のお相手なんて出来ると思ってるんですか?

俺じゃ何かあっても言うことなんか聞いてくれないですよ?」


「出身なんて関係ない、君は北方近衛師団の副師団長だろう。

貴族の子弟とはいえ、まだ爵位を継いでいない以上、現時点での立場は君の方が上だ心配いらないさ。」


「いやいや、現時点でそうでも未来を考えると心配しかないんですけど?睨まれたくないんですけど?

ご機嫌取りながら問題を起こさないようにさせるとか、本当無理ですけどぉ?

師団長がやって下さいよ〜。そういうのは師団長の十八番(オハコ)でしょ?」


「………集客を見込んで最後の魔獣賭博を狩猟大会と同時に行うことになったんだ。」


「へっ!?」


「私は…………………客の接待で無理だ。」


「あーー……………………………。」


金髪碧眼で整った顔のイワンは人当たりも柔らかなことから、魔獣賭博常連の金と暇を持て余した有閑マダム達から大人気だ。

彼女達はイワン目当てに大金を落としてくれる。

魔獣賭博が最後となるかもしれないなら、出来るだけ多くの売り上げを稼ぐためにもイワンは抜けられないということなのだろう。


ケビンと名家の子息達のお守りなど、もう面倒事の臭いしかしないが逃げ道はないらしいとストーンは天を仰いだ。





「………………師団長は本当にこのままで良いんですかい?」


煙草の煙の向こうに見える、普段と変わりはないが疲労の陰が深く落ちるイワンの顔をストーンはじっと見つめた。


聞いても仕方がないのは分かっているが、尋ねずにはいられない。


違法とはいえ魔獣賭博で利益を上げて、北方近衛師団の騎士達の生活が回るように算段をつけて来たのはイワンだ。

斜陽のドロフス侯爵家や軍の運営だって、イワンが資金を遣り繰りをして来たからこそ何とかなって来たのだ。


こんな一方的な終わりで納得出来るのだろうか。


「………………良いも悪いもないさ。

閣下の義弟といっても、スクアーロ子爵家は家門の中では下っ端だ。

……………北方近衛師団の師団長の首をかけたって、閣下の決定を止めることなんて出来ないよ。」


自嘲紛れの笑みを浮かべてイワンは己の首に手刀を当てた。


つまりはもう……………………首を覚悟で頼んでも、無理だったと言うことだ。


「……………笑える話だろ?」


「は、はははっ………。」


ストーンの口から乾いた笑いがこぼれた。


「それに……………それでも家族のする事だ、仕方ないさ。」


「……………………………。」


イワンの横顔には諦念が浮かんでいた。




「さて、行くか……………。」


もう一服だけ吸った後、イワンはすっかり短くなった煙草を捨て、足で踏み消しながら言った。


「あれ、師団長どこか行くんですか?今帰ってきたばかりじゃないですか?」


キョトンとしたストーンの問いかけに、イワンは苦笑する。


「閣下のお望み通り魔族を始末しに……。

狩猟大会に魔獣賭博の魔獣を使うと言っただろう?それを聞いたケビンが魔獣を見に来たいと言って聞かないんだ。

万一魔族なんているのを見たら…………。」


「あっ、なるほど………………………。」


確かにあの派手好きのケビンが魔族なんて見たらどうなるか、簡単に予想がつく。

そりゃあさっさと始末した方がいい。


『やれやれ』と諦めてストーンはイワンについて行こうとするが…


「………君は来なくていいよ。」


「へ?」


一緒に行くのを止められて『何で?』と思うも、そこは長い付き合いだ。

すぐにイワンの意図を察した。


恐らくは魔族を始末する事で団員たちから向けられるヘイトを一人で背負い込む気なんだろ。


自分から貧乏くじを引きに行く上司に、心の中で『はぁ…』とため息を吐きながらストーンはガシガシと頭を掻いた。


「な〜に言ってんですか師団長?

魔族の始末なんて雑務は、それこそ俺に任せておけば良いんですよ。

だいたいいくら死にかけの魔族って言っても、万一そのお綺麗な顔に傷でもついたらどうすんですかい?

魔獣賭博にくる客の中には師団長目当てのマダム達が沢山いるって、ご自分だって分かってんでしょ?

次の魔獣賭博が最後の一回になるかもしれないなら、師団長は貴婦人方に気分よ〜く金を落としてもらうためにも、しっかり顔のお手入れでもして下さいよぉ色男〜。」


茶化すようなストーンの言葉にイワンの眉根が寄るが、それこそ長い付き合いだ。

これでもストーンが気づかっているのだと分かっている。

そして実際顔を傷つけるのは不味いということも。


しかし


「………………いいのか?……魔族を捕まえたのは確か君の部下だったろ?」


本当に平気なのか?と確かめるようにイワンはストーンを伺いみたが、ストーンはカラリと笑った。


「あはは〜、いいんですよ。アレは捕まえたってよりは、運よく死にかけを拾ってきただけですって!

まっ、魔族が暴れて仕方なく始末したとでも言っとけば大丈夫でしょ!

文句がでたら拳で黙らしときますから!」



「だが………………………。」


それでも迷うように逡巡するイワンに、ストーンはへらへらと揉み手をして言った。


「あ〜、でも…もし俺に悪いとか思ってんなら、今月の給金たっぷりくれても良いんですよ?

てか実は金が入ると思ってたんでガスパールの酒屋で結構な額ツケで飲んじゃったんですよねぇ。

ってことで、とりあえず銀貨3枚ほど貸してくれません?でへへ。」


「君ね………………………。」


すっかり何時もの調子のストーンにイワンは困ったような顔を浮かべて、懐から財布を出すと銀貨を5枚握らせた。


「うおっ!師団長ったら太っ腹!」


「……言っとくけど、あくまで()()だけだからね。それからツケは先に返しなさい。」


そうは言ってもイワンから金を返せと言われたことはない。

ストーンはホクホクと頬を緩ませる。


「えへへへ〜」


イワンは困った子供を見るような目をしてから、少しだけ申し訳ない表情で呟いた。


「…………君の腕をこんな事ばかりに使わせてすまないな。」


「何です気持ち悪い〜。俺は酒が飲めて楽しく日々過ごせればそれで良いんですって!

そんでまた小遣いくれたらもっと良いですねぇ。ヘヘッ。」


「だから()()()()()だと………………まったく君は私には勿体ない部下だよ。」


コツンとストーンの頭を小突いてイワンはその場を立ち去った。


『あんたこそ勿体ねえよ………。』


ストーンがイワンの背中に呟いていた事には、まったく気づいていなかった。



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