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16 魔族の始末について

咥えた煙草がポロリと落ちる。


「ええええ、な、何でですか?どうしてせっかく捕まえた金のなる木を!」


ストーンの絶叫のような驚きの声が響いた。


何しろ魔族だ。


この先捕まえるチャンスなんて二度と訪れないだろう。


ドラゴンや不死鳥のように伝説の生き物とまではいかなくとも、王都で暮らす者にとっては、生涯見る事も到底かなわないレアな存在だ。

魔獣賭博に出せば、一目見ようとわんさか客は集まるに違いない。


それだけじゃない。


実を言うと魔獣賭博の利益は、ここ最近低迷していた。


魔獣賭博が禁止となってから、魔獣賭博の市場は軍閥の名門ドロフス侯爵家が後ろ盾なことから独占状態だったが、北方近衛師団が捕まらないならと他の騎士団も真似をするようになり、あちらこちらと賭博場が出来て集客が分散し始めたからだ。

しかも他の賭博場は、魔獣賭博だけでなくカジノや麻薬、果ては売春などの違法行為を抱き合わせで行う所すらあった。


こちらも違法な事に手を染めている手前、他の賭博場を捕まえるわけにも行かない。


そして目新しい甘い誘惑に人は流れるものだ。


例に漏れずドロフス侯爵家の顧客も離れつつあった。


それでも他の賭博場が小型の魔獣しか扱えないのに対して、ドロフス侯爵家の魔獣賭博場は北方近衛師団が拠点を構える王都から離れた砦であるが故に、中型〜大型の魔獣を扱える事で、一定数の顧客を保ってはいた。


ただ客の要望というのは天井知らずだ。


中型の魔獣ばかりを取り扱えば、赤羅様(あからさま)な不満が飛び出し、もっと大型で危険な魔獣の戦いが見たいと要求はエスカレートしていった。


その為ずっと大型の魔獣の捕獲に苦慮していたのだが、そこに来ての魔族の確保だ。


魔族を捕まえて来たのはストーンの部下で、ヘマをやらかした部下に『チャラにしたかったら辺境にでも行って魔物か魔族でも連れてくんだな。』と冗談で言った言葉を真に受けた部下が、本当に辺境へ赴き運よく死にかけの魔族を連れて帰ってきたのだ。

まさか本当に魔族を連れて来るとは思ってもいなかった北方近衛師団一同は、度肝を抜かれつつもこれで大型魔獣の確保に頭を悩ませる必要もなくガッポリ稼げると狂喜乱舞した。


それなのに………


「冗談でしょ?お願いだから冗談って言って下さいよ師団長!千金の値を得るチャンスだってのに、何だって始末なんて話になんですか?」


ストーンがイワンの胸ぐらを掴む勢いで問い詰める。


「…………危険だからだそうだよ。」


ふ〜っと一服ふかしながらイワンは端的に答える。


「危険?あの魔族が?あんな死に損ない危険でも何でもないでしょ?

師団長だって知ってるじゃないですか、腕は片方もげてるし、目だって3つあるうちの2つが潰れてる。臓器だって幾つかは駄目になってんですよ?

あれの何処が危険って言うんですか?

心配だって言うのなら、大将に直接ご自分の目で確かめて貰えばいい話じゃないですか!」


ストーンの主張は当然予想していたのだろう。イワンは特に反応する事なく淡々と説明した。


「もちろん言ったよ。

だが侯爵閣下は今は予算案を通す事に忙しくて、そんな時間はないと仰せだ。

というか魔族を捕まえた事自体信じていなくてね。

魔物あたりを魔族を勘違いしてるんだろうと言われたよ。」


「は………………?」


あまりの事にストーンは絶句する。


「それに閣下の言う危険というのはね、魔族のことじゃなくて、騒ぎになって()()()()()()()()()を指しているんだ。

ケビンのやらかしで不足した資金の穴埋めの為に、もう一度だけ魔獣賭博を開くことには同意はしても、魔族なんて世迷言で騙して金をせしめるなとお叱りを受けたよ。

どのみち予算が下りれば魔獣賭博からは足を洗うのだから余計な事はするなともね。

閣下の頭の中は今、予算が通るかどうかしかないんだ。

予算さえ下りれば騎士団全てがあるべき姿へ戻ると信じてるんだよ。

仮に予算が出たとしたも、賄賂が途絶えたら予算が切り下げられるなんて微塵も予想していないんだ。」


「んな馬鹿な………。」


信じられなくてストーンはポカンと口を開けた。


(あの大将ボケたんですか?)


口にこそ出さなかったがそんな思いが込み上げる。


確かに魔族なんて生まれてこのかた一度も見たことは無いが、魔物と魔族を間違えるものか。

その大きさや異形の姿を見ただけでも魔物とは違うのは明らかだ。


それに予算が通ったとして、だからどうだと言うのか。


魔族という金のガチョウを捨てさせるだけでなく、魔獣賭博までやめさせて、予算だけであるべき姿に戻れると本当に本気で信じているのだろうか。


予算など下りたところで、騎士一人一人へ回ってくる金は微々たるものだ。

給金だけで生活を賄える様になったとしても、カツカツの生活になるのは間違いない。

魔獣賭博という甘い汁を吸ってしまった今更、騎士達がカツカツの生活で清廉潔白に生きる事を喜ぶとは思えない。


だいたい頼みの予算だって、所詮は"賄賂" で手に入れる事になった物だ。魔獣賭博をやめて"賄賂"が贈れなくなれば、果たしていつまで続くのか分からない。


その時になって、やっぱり『賄賂は必要だ』と思っても、賭博場をなくしてしまっては、どうやって資金を調達するというのだろうか。

一度賭博場を閉めてしまえば、今やライバルが沢山ある中、再び集客するのは難しい。


世渡り下手なストーンですら思いつく疑問に、ドロフス侯爵は見て見ぬふりでもしてるのかと頭が痛くなって来る。


世迷言を吐くのはどちらだと、不敬ながらドロフス侯爵の頭を疑いたくなった。


「それとね………………」


「まだ何かあるんですかい?」


嫌な予感にストーンの口元がヒクリと引きつる。


「今度ケビンの学院で狩猟大会があるのは知ってると思うが、ケビンの優勝に箔をつけるために魔獣賭博で使ってる魔獣を提供する事になった……。」


「……………マジですか。」


狩猟大会は北方近衛師団の砦の眼前に広がる森で行われる予定になっていた。

その為北方近衛師団には狩猟大会の為に獲物の用意とサポートの指示はされていたが、苦労して集めた魔獣を差し出せと言われるとは思ってもいなかった。


魔族どころか魔獣まで居なくなってしまっては、この先魔獣賭博は完全に開けなくなってしまう。

ドロフス侯爵はそれだけ本気で魔獣賭博など潰れて良いと考えていると言うことなのだろうが、そんな命令を団員たちが知ったらどれ程の反発を喰らうか………

反発どころか暴動が起きるかも知れない。


ストーンは本格的に頭を抱えたくなって来た。


「あと………………」

「やめて、もう聞きたくないんですけどぉ〜。」


ストーンはもはや涙目だ。

まだ続く話に耳を塞ぎたくて耳に手を当てたが


「狩猟大会で君にはケビンに付き添って貰いたい。」

「マジで聞かなかったことにしてくれません!?」


バッチリ聞こえてしまい、本気で聞きたくなかったと顔を歪めた。



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