11 狩猟大会
「ケ、ケビン……………。」
青を取り越してすっかり顔色を無くしてしまった騎士科の生徒達。
その顔には『なんで?』とハッキリ書いてある。
逆に毒花達は大盛り上がりだ。
「きゃあ!嬉しいですわ!今年はもうケビン様の優勝するお姿は見られないのかと思ってましたけど、これで拝見出来ますわね!」
「表彰台に立つお姿は、きっと太陽神のように神々しいと思いますわぁ。」
まだ大会が行われると決まった訳でもないのに、想像に夢膨らませて、話の花を咲かせ始める。
「うふふ、それでは私、お父様にもう一度大会を開催して貰えるようにお願いして参りますわ。」
「あら、それでしたら私も父に頼んでみますわ!」
「ええ、私も!」
それぞれが自分の家門を頼って剣術大会の開催に動き出そうとして、騎士科の生徒達は燃え尽きた灰のようになるが
「ああ…待ってください。私のスイートレディー達。」
立ち去ろうとする毒花達をケビンが呼び止めた。
「せっかくのご厚意ですが、もう一度剣術大会を開くようにお願いして頂く必要はありません。」
「え?」
「それはどういう意味です?」
毒花達が足を止めて不思議そうに振り返る。
「先程、騎士科の学生が言ったように、剣術大会は年に一度開かれるのが伝統です。
ですから、いくらやむを得ぬ事情だったとしても、個人的な理由のために再度開くことは出来ないのです。
実をいうと、我がドロフス侯爵家からも学院に大会の延期か再度の開催を申し込んでいたのですが、無理だと断られておりました。」
如何にも残念という表情でケビンが首を振る。
「えっ?で、ですが先程、私達の期待に応えてくださると……。」
「ケビン…………………?」
騎士科の学生達も首をひねる。
「ええ、ですので代わりに狩猟大会が主催される事が決定しているのですよ。」
「!!!!!!!!!!」
なるほどドロフス侯爵家は、事前に誰かが剣術大会の再開を要求すると予測して、準備をしていたのだろう。
しかも狩猟大会とは上手い策だ。
なぜなら一対一で戦い合う剣術大会とは違い、狩猟大会ならば仕留めた獲物の数で勝敗が決まる。
個人ではノクスに勝てないと踏んで、団体でやり込める気なのだ。
透けて見えるドロフス侯爵家の狡猾さにカタリナは人知れず舌打ちした。
「ケ、ケビン!なんだよ、それならそうと早く言ってくれれば良かったのに!!」
息を吹き返した騎士科の学生達がケビンに詰め寄る。
「ふっ、本当はもっと後で学院から発表になるはずだったんだよ。
しかし我が美しき花の乙女たちが、余りに今回の剣術大会に私が出場できなかった事を残念がってくれるので、こうして先に打ち明けたのさ。」
「まあ……そうでしたの。そうとも知らずに私達ったら騒いでしまって、恥ずかしいですわ。」
「そうですわよね。私達が不満に思うのですもの、名門ドロフス侯爵家が何も声を上げない筈がございませんでしたわ。既に次の大会を準備していたなんて流石です。」
「あら、でも私はケビン様が一対一であの田舎騎士をやり込める姿が見たかったですわ。
狩猟大会なのはちょっと残念です…………。」
その反応も予測してあったのだろう。
「確かに私も剣術大会でないのは残念ですが、一対一の対戦であれば模擬戦でいずれ可能でしょう。
それよりも狩猟大会であの男より多くの獲物を獲って見せる方が、日頃魔族狩りを自慢する辺境には堪えるのではないですか?
それに…………………。」
ケビンは一度言葉を切ると、残念だとぼやいた赤い毒花の前でキザったらしく跪いて彼女の手を取った。
「狩猟大会は数多く獲った獲物を敬愛するレディーに贈るのが慣わし。
このケビン・ドロフスに美しき薔薇の妖精に贈り物を捧げる栄誉を頂けませんか?」
ご自慢の甘いマスクにとろける甘い笑みを乗せて、バチコーンと効果音がつきそうなウィンクを飛ばす。
毒花達が『キャ~!!!』とザワつき
カタリナは『ギャー!!!』とゾワついた。
辺境の魔族討伐を只の狩猟大会の狩りと並列に扱う常識の無さ、おまけにこの気色悪い態度。
カタリナの気持ちが底辺まで凍えてきた。
更に信じ難いのが
「カタリナ嬢……次の大会は私が出る為、残念ながら貴方の婚約者のご活躍は期待出来ないでしょう。
悲しい想いをさせてしまうであろう婚約者に代わり、このケビン・ドロフスが貴女にも獲物を捧げますので、どうかお許し下さい。」
そう言うとカタリナの許可もなくカタリナの手を取り、チュッとリップ音をたてて指先にキスを落とした。
ゾゾゾゾゾ………とカタリナの背中を悪寒が駆け上がり、『ヒイィィィ』という言葉が漏れ出そうになるのを鋼の精神力で持ち堪える。
自分が勝つと信じて疑わない上に、カタリナが嫌がるとは微塵も考えていない厚かましさ。
思わず『オエッ』とえずきそうだ。
(…喧嘩なんか売るんじゃ無かったわ。コイツ等とは関わらないのが一番だった……。)
「ま、まあ…それは有り難う存じます。それでは私はこのあたりで失礼させて頂きますわ。」
ここ数年の淑女教育で鍛え上げた『完璧な淑女』と評される笑顔を張り付けて挨拶し、ゲンナリした気持ちでカタリナは背を向けた。
まだ不満を言い足りない毒花達が喚いていたが、面倒臭いのでそれは無視だ。
だが、そんな毒花達を諌めるケビンのある言葉が聞こえてきて、カタリナはピタリと足を止めた。
「まあまあ、我が麗しの花の乙女たち。カタリナ嬢は可哀想な方ではありませんか。」
カタリナの中で何かが切れる音がした。




