10 盛り上がる毒花達
「……まあ、ありがとうございます。とても嬉しいですわ。
ですが皆様ご承知の通り、私の婚約者である辺境伯子息のノクス・クロイが本日剣術大会で優勝いたしましたもので、これから祝勝会に参加せねばなりませんの。
ですので残念ですけど、ご一緒するのは難しいですわ。」
にっこりとほほえみながら、カタリナは態とノクスの名前と剣術大会で優勝したことを口に出した。
たかが学院の剣術大会などノクスが優勝するのは当たり前なので祝う気など更々ない。
当然祝勝会など真っ赤な嘘だが、嘘も方便だ。
怪我で大会に参加出来なかったケビンにとって、いま最も聞きたくない名前であり話題だろう。
ケビンの笑顔がノクスという名前と大会優勝という言葉に固まる。
「あっ、でも宜しければ皆様も祝勝会においでになりませんこと?
騎士科の皆様にお祝いして頂けたら、婚約者も喜ぶと思いますのよ。」
更にとどめとばかりに、カタリナは無邪気にケビン達を誘った。
ケビンのこめかみに青筋が立ち、ケビンの腰巾着連中が『ヒッ』と顔を青くした。
しかしそんな事はカタリナの知ったことではない。
(嫌ならばカタリナに構わずとっとと立ち去ればいいのだ。)
ニコニコとあくまで親切心から提案してますというような顔で、ケビンの反応を待った。
しかしケビン達よりも先にざわめいたのは、ケビンの後ろの毒花達だった。
「まあ、カタリナ様!腕を骨折されて剣術大会に参加出来なかったケビン様に対して、なんてデリカシーの無いことを仰有るの!!」
「ケビン様だけではございませんわ!騎士科の多くの生徒が、近郊の村に突然出た魔獣の討伐に出られて怪我を負って出場が叶わなかったのをご存知無いのですか!?」
「そうですわよ!だいたいケビン様が大会に参加されていたら、優勝はケビン様のものだった筈ですのよ!?
それなのに、たまたま運よく幸運を手にしただけのクセに身の程知らずが恥を知りなさい!!」
ケビン達は大会の数日前に、たまたま突然現れた魔獣を、それもたまたま偶然その場に居合わせた彼等が退治して、その時に怪我を負ってしまい出場出来なかった事になっている。
毒花達はケビン達が如何に村を守る為に魔獣と勇敢に闘い、怪我を負い、そして大会に出られなくて辛い思いをしているのかを訴えた。
本当ならばケビンが勝っていたのだ、ケビン達の方が辺境の騎士なんかより強いのだとカタリナを攻撃する毒を吐く。
しかし毒に当てられるのはカタリナではなくケビン以下の騎士科の男子生徒達だ。
怪我で大会に出場出来なかった事が真実かどうかなど本人達が一番承知だからだ。
腕や足に包帯を巻いた彼等は、毒が撒かれるたびに、気まずそうにしたり、居心地が悪そうに視線を彷徨わせている。
しかも赤い毒花が閃いたように言った。
「そうですわ!学校にもう一度剣術大会を開くように要請したらどうかしら?」
その言葉に騎士科の生徒達がギョッと目を剥く。
「!!!まあ、それは名案ですわ!!何故もっと早く気づかなかったのでしょう!
そうすればケビン様達が一番だと知らしめる事が出来ますわね!」
「本当ですわね!そもそも今回の剣術大会はケビン様をはじめとする有力候補の生徒達が怪我や病気で出場出来なくて、とても公正な評価が下せる大会とは言えませんものね。やり直すべきですわよ!」
「その通りですわね!私お父様にお願いして、もう一度剣術大会を開催して貰えるようにお願いしてみようかしら!」
赤い毒花に続いて、黄色、緑、青の毒花達がキャアキャアと盛り上がり出す。
なまじ権力のある家門の令嬢達なだけに実現してしまうかもと不安なのだろう。
騎士科の生徒達は真っ青だ。
せっかく怪我までして、大会の出場棄権したというのにもう一度開かれてしまったら、たまったものではないのだろう。
「ふふふ、カタリナ様。貴女だってご自慢の婚約者様が、おこぼれで優勝したなんて言われたくないでしょうし、もう一度剣術大会を開くのに賛成して下さいますわよねぇ?」
ケビンが出場さえすれば、優勝するのは間違いないと本気で信じているのか、毒花達が挑発的な目をカタリナに向ける。
(あらこれは面白くなったわ……。)
恥をかかせてやろうと意気込んでいるようだが、恥をかくのはどちらか…。
内心ニヤリと笑う。
「そんな……大会のやり直しなど、私の一存で決められるものではございませんけど、皆様が望まれるのであれば……。」
『勿論バッチコイ!』と言うつもりだったのに、騎士科の生徒達が割って入って来た。
「ちょ、ちょっと待って下さいご令嬢方!」
「わ、我々は反対です!!」
盛り上がって来た所に水を指されて毒花達は不満顔だ。
「どうしてですの?もし大会がもう一度開催されれば、名声を得るチャンスではありませんか。」
「そうですわよ。このまま辺境の田舎者に大きな顔をさせておく気ですの?」
騎士科の生徒達はタジタジだ。
「で、でも剣術大会は年に一度と決められている伝統です!我々が怪我をして出場出来なかったからと言って、個人の都合でもう一度開催するのは宜しくないです。」
「そ、そうです!それに我々は剣術大会に出れなかった事について特に思う所はないですから!!」
「わ、我々は村を守る為に魔獣を倒しました!名声ならそれで十分ですので!!!」
汗をびっしよりとかいて、もう必死だ。
「ケ、ケビン!ケビンだってそう思うだろ!?」
祈るような眼差しをケビンへと向ける騎士科の生徒達。
しかしケビンはそんな騎士科の生徒達を尻目に、フッと髪をかき上げながら
「ふふ、私の麗しの花達が私の活躍を望むと言うのであれば、その期待を無下に断る訳にはいきませんね。」
と宣い騎士科の生徒達を絶望の淵へ叩き込んだ。
もう一度剣術大会が開催されれば一番困るのはケビンのはずだ。
カタリナは何故か余裕の表情のケビンに首を傾げた。




