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海賊のひまつぶし  作者: 櫂矢 真衣
呪われし海にセイレーンの歌
37/86

第36話 岩礁での会話①

 岩礁に残った三人は、試練の島へ向かって行く船を見送った。

 船はどんどん小さくなって、最後には目を凝らしても見えなくなった。

 クラフトは、不安を隠しきれない顔で、ずっとそちらの方を見ている。

「そんなに思い詰めちゃダメだよ。ちょっと落ち着こう」

 エルモは、手に持ったヤシの実をクラフトに差し出した。

「……どこからこれを?」

 不思議そうにヤシの実とエルモの顔を見比べる。

「セイレーンのお姉さんがくれたの。陸の者には必要だろう、ってさ。いやー、いい人たちだね」

「すまない。欲しくないからメアリーと二人で分けてくれ」

 クラフトは、つっけんどんに言った。

「欲しくないって言ったって、飲まなきゃ死んじゃうよ」

「死んだ方がいいさ。僕なんか」

 大きくため息をついて、クラフトは海を眺める。

「うーん、心折れてるねえ。そういう時こそおいしいものでも食べたほうがいい。セイレーンのおねーさん、ちょっといいかな?」

 エルモが声をかけると、セイレーンが一人、波の下から顔を出した。

「何用か」

「こちらの彼に、この海で一番おいしいものをくれないかな。ちょっと元気なくしちゃってるから」

「承知した」

 セイレーンは海へ潜って行った。

「図々しいぞ。ここは食事処じゃないんだ」

「いいじゃん。くれるって言うんだから。いっぱい食べたら元気になるよ」

「なるもんか」

「なんで?」

 メアリーがクラフトを見上げている。

 クラフトは返事に困って黙り込んだ。

 しかし、肩に止まったラヴが代わりに答えてしまう。

「ボクガシネバヨカッタノニ」

「こら! やめろ!」

 クラフトは慌ててラヴを捕まえようと手を伸ばすが、黄色い鳥は危なげなく羽を広げて逃げて行く。

「ダメだよ。自殺なんか考えないで」

 適当な石を拾ってヤシの実を叩きながら、エルモが諭すように言った。

「それも神の教えか?」

「確かに自殺すると地獄に落ちる的な話はあるけど、違う。私がクラフトに死んで欲しくないだけ」

「それは嬉しいが、僕の罪はあまりにも重いよ」

 ガシッ、とエルモが石をぶつけるたびに、ヤシの実には傷が入る。

「罪?」

「僕にジョナサンのような勇気があれば、兄上は僕に先んじて様子を見に行く必要なんてなかった。誰に反対されたって、一人で小船に乗って海に出ればよかったんだ。なのに僕は、周りを巻き込んだ」

 ガツガツとヤシの実を叩く音が、波の音をかき消す。

 ガッ、と最後に鋭い音がして、ヤシの実に穴が空いた。

「まあ、飲みなよ」

「僕より先に、メアリーに飲ませてやってくれ。小さい子は喉が乾くのが早いだろう」

 ヤシの実を手渡されて、メアリーはコクコクと中身を飲んだ。

 それから不思議そうにクラフトを見上げて、問いかける。

「海って怖いの? 私、生まれた時から海にいるから、わからない」

 クラフトは一瞬黙って、少し考えてから、言葉を選んで答えた。

「怖いよ。僕は足がすくんで動けない。君の兄さんは本当に勇敢だ。僕なんか、僕のお兄さんでもダメだった、って聞いただけで諦めてしまったのに」

 いまいちピンと来ていない顔で、メアリーは首をかしげた。




 ジョナサンが第一の島から、中央の岩礁に戻って来るまでに、三日かかった。

 エルモとメアリーは、別れた時と変わらない様子で待っていた。クラフトは、少しばかり憔悴している。

「よう、久しぶりだな」

 ジョナサンが声をかけると、クラフトはホッと一息ついた。

「ああ。無事でなによりだ」

「ずっとここにいたのか? 飯はどうしてた? 悪い、なにか置いて行けばよかったな」

「問題ない。セイレーンたちが魚や貝や、水の入ったヤシの実を届けてくれた」

 ジョナサンは、船倉から食料をいくらか持って船を降りた。

 干し肉に干した野菜やフルーツ、前の港町で仕入れたライムとオレンジ、それから酒だ。

「ほら食え。生魚ばっかじゃ飽きただろ」

「やったー! お酒だー!」

 エルモが大喜びで瓶を開けた。

 ジョナサンの隣にメアリーがやって来た。じっとジョナサンの顔を見ている。

「どうだった?」

「楽しかったぜ! 次の島はメアリーも行くか?」

「楽しかっただと?」

 クラフトが意外そうに聞き返した。

「兄上でも無理だったような試練が、楽しかった?」

「おう。話してやるから、よく聞いとけよ。あの島であったことを聞いたら、お前もやっぱり行けばよかったって言うかもなあ?」

「ジョナサン?」

 船の上でデビーが呆れ笑いを浮かべている。

「話を盛っちゃダメよ?」

「わかってるよ! ちゃんとありのままを話すって!」

 ちぎった干し肉をかじりながら、ジョナサンは一つ目の島での出来事を話し始めた。


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