第37話 ジョナサンの話⑥
島に着いた俺たちに、案内をしてくれたセイレーンが言った。
「あなたは、末裔の代理人ということでよろしいか」
「まあ、そうだな。俺でいいなら代理をさせて欲しい。大丈夫か? あいつの親類でなけりゃ資格がないとかそういう決まり、あったりする?」
「肝要なのは、セイレーンのために人間が手を貸してくれるか否か。末の子の末裔のためにあなたが動いてくれるのであれば、それもよし」
島には、大理石の建物がある。結構でかくてさあ。立派なもんだったぜ。俺は建築とか詳しくないからよくわからねえけど。四角く切り出した石をレンガみてえに積み上げて家が作ってあったんだ。
俺はセイレーンに聞いた。
「で、試練ってのはなにをすればいいんだ?」
「三つの島ではそれぞれ、過去、現在、未来を試される。この島は過去の島。ゆえに、過去にまつわる試練があるはず」
「過去?」
「我々に伝わっているのはそこまでだ。幸運を祈る」
そう言って、セイレーンは海に潜ってその場を去った。
ざっと見たところ、岩でできた島に岩でできた家が立ってるだけの、さみしい島だった。
俺は船を降りた。
「よし、行ってくる。夜までには帰ってくるから、いい子でお留守番しててくれよな。船倉にりんごと飴玉があるからお腹空いたら食べていいけど、ほどほどにな。全部食べちゃダメだぞ」
「なにを言ってるの? この私に我慢を強いるなんていい度胸ね」
「そっかー、デビーちゃんはいっぱいお菓子食べたいのかー。しょうがないなー」
ここだけの話、その日の分だけは棚の低いところに移してあるけど、残りのぶんはデビーじゃ手が届かない高いところに……、わっ! 聞こえてた!? ごめんて! やめろ! カモメはマジ勘弁してください! ぎゃー!
えー、ごほん。それでだ。
俺は大理石の建物に入った。ちょっと埃っぽかったが、いい家だ。
まず玄関があって、そこからは扉が三つ見えた。
「お邪魔しまーす」
俺は、あっ、と思った。誰かが入って来た形跡がある。ところどころ埃が積もっている厚さが違うんだ。歩いたり、物を動かしたりした奴がいる証拠だ。
十中八九、お前の兄貴だろうな。
簡素な家だったよ。ほとんどなにも置いてない。当然と言えば当然だよな。こんなところに住んでたんじゃ、ろくすっぽ市場にも行けねえだろうし、家具を作ろうにも材木も手に入らねえ。
あそこにあるのは、海で調達できるものか、もしくは陸を追われた時に持って来られた物だけなんだろう。
家の中には三つの扉があった。扉の向こうは、それぞれ寝る部屋、食べる部屋、それから、試練の部屋。
いや、兄弟の誰かが暮らしてた時は、別の使い方してたんだろうが、俺は勝手にそう呼んでる。
なにしろ、その部屋にはセイレーンがいて、おっかない顔でこっちを見てたからな。
陸の上には上がれない、って話だったんでびっくりしたが、よくみるとそいつは剥製だったんだよ。
加工されて、生気がなくて、見ただけでも手触りは硬いってのが、なんとなくわかった。触る度胸はなかったけどさ。
そいつは、石の台座の上で、石像みたいに置かれていた。肘を床について横たわり、尻尾と胸を反らしたポーズだったよ。
「来たか、試練に挑む者よ」
剥製が喋ったんで、俺はびっくりして飛び上がった。
「なんてこった。おいおいデビー、死人は喋らないって話じゃなかったのかよ」
この場にはいない奴に言ってもしょうがないけど、あとで愚痴をこぼそうと思っていた。けどその疑問は剥製が答えたから解決したんだ。
「私は死人にあらず。呪いの具現、試練の裁定者である」
ぎょろっと剥製の目が動いた。加工された死体のくせに、結構な目力だったぜ。
「つまりあれか? お前が無理難題を言うから、俺がそれを達成すればいいってことだな?」
「話が早いな。では、試練を言いわたす」
俺は心の中で気合を入れた。なんでも来やがれ、って気分だった。
「後ろを見るがいい。鍵のついた小さな木箱があるだろう? 過去に、この家の主人が封じたものだ。それを開けずに、なにが入っているか当ててみせよ」
後ろを振り返ると、確かに言われた通りのものがある。古くて黒ずんだ木の箱に、鉄の金具がついている。
「えっ、むずくね? わかるわけねえだろそんなの」
「封じられたものを見事当てれば、認めてやろう。ただし、チャンスは三度まで。三度外せば、高波がお前をさらっていく」
ってわけだよ。いやー、正直びびったぜ。
「ちなみに、ヒントとかある?」
「三度まで質問を許す。その時、私は絶対に嘘をつかない」
「オーケーわかった。じゃあ、ちょっとなにを質問するか考えてくるから、一晩待っちゃくれねえか?」
「よかろう。いつでも来るがいい」
俺は、なにか手がかりがないか家の中を探索してから、船に戻ってデビーと相談を始めた。
「あれかも」「これかも」って考えるのは、結構楽しかったぜ。
ここにお前らもいたら、ワイワイ相談できてもっと楽しかったろうに、って思いながら考えてた。
一緒にやれなくて残念だよ。




