【主役】第9話:ケンノスケ先生【交代?】
**討伐計画の盲点に気付いたヒドゥン・エンカは、
計画の大幅な変更に多くの時間を費やす事となった**
「先生、あそこに建物がありますよ。村……ですかね?」
「そうか、少し寄ってみよう」
「分かりました、先生」
山林の中で特に丈夫そうな木に登った俺は目深に被った帽子を少し上げ、遮光器越しに見える建物を下にいる三度笠を被った長身の男に伝えて手を振った。
布バズーカを作ってから約1か月、岩山を下りた俺はケンノスケと言う名の男を先生と呼んで共に旅をしている。
縞模様の着流しに藍色の道中合羽、三度笠の下から覗く顔は白い遮光器と忍者のような黒い口当て布に覆われて一切見えない。
左手に携えた柄から鞘まで金色に輝くロングソードは金色の断罪剣という名で、本人の服装とはミスマッチながらひと目で曰く付きと分かる代物。
少々時代掛かってはいるが日本人な名前と格好の人物なら、どこで目を光らせているか分からない魔王の配下もケンノスケを転生者だと思い込むだろう。
そして俺は、転生者の腰巾着として魔王の居城まで目立たず行ける寸法だ。
無論、こんな都合のいい人物が偶然俺の前に現れる訳などあろうはずも無い。
結論から言えば“先生”ことケンノスケは、俺が作った操り人形だ。
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偽転生者を作ると決めた時、最初に手を付けたのが目立つ得物の作成だった。
まず俺は金色ビキニから解し取った糸を布の袋で作った芯に巻き、柄から鞘まで金色のロングソード、金色の断罪剣に仕立て上げた。
生前は全く縁の無い代物で不安もあったが、少なくともこっちの世界では細くて丈夫な糸を隙間無く編んだ生地で出来ていたから思った以上の糸が取れた。
三柱の女神に見せられた“体験版”を思い出しながら剣の形に整えた俺は、目立つ得物の完成に満足して本体の作成に入った。
時間が惜しいので布バズーカを支柱にし、きつく巻いて束ねた布にカルシウムの粉末を混ぜたこんにゃく糊を塗ってから形を整えて周囲の骨組みを作った。
無論カルシウムの粉末は切断糸夜天光の摩擦熱で研磨したから、ドラゴンの骨と同等の強度になるだろう。
比べる相手とは、まだ遭遇していないけどね……
続けて俺は、こんにゃく糊で補強した厚手の布で細長い筒状の袋を大量に作って空気を詰め込んだ。
空気なら無限に詰め放題、無尽蔵に手に入るのは糊と布だけではないって事だ。
そして細長い空気袋を筋肉のように束ねて骨組みを囲い、人の形が完成した。
最後に厚手の布をカルシウムの粉末入りこんにゃく糊で補強し、形を整えながら表面を研磨して装甲として全身に貼って完成。
着流しと合羽に隠れているが、全身は生半可な鎧よりも頑丈になっているはず。
ケンノスケを作った時に確信を得たのだが、魔力を込めた夜天光でカルシウムの粉末を研磨すると推定の域を出ないがドラゴンの牙のように頑強になる。
完全に把握したとは言えないし、もっといい方法があるのかもしれないが、今の俺にはこれが最適解となっている。
例え選択がワーストでも高いステータスを駆使してベストの結果を出す。
今の俺が本懐を遂げるには、これしか方法が無い……
こうして布から作ったケンノスケだから、当然のように顔なんて無い。
時間を掛ければ人間の顔に見える細工も作れただろうが、魔王軍が侵略中である事実を考えれば余裕は無いと判断して顔を隠す事にした。
三度笠の骨組みは竹の色をした布を巻いて形を整えてからこんにゃく糊を塗り、細長く裁断してこんにゃく糊で補強した菅色の布で笠を編んだ。
器用さ10兆のおかげか、最初こそ苦戦したがすぐに完成となった。
ちなみに同じ要領で草鞋を作り、ケンノスケに履かせている。
目の遮光器はさざなみで切り抜いた厚手の布にカルシウム入りのこんにゃく糊を塗ってから夜天光で研磨した。
代わり映えは無いが、もし壊れてもすぐに補充出来る手段を優先した。
口当て布は特に細工は無いが、内側の空洞に糸を張って震える仕掛けを作った。
空洞に張った糸は途中の様々な糸と合わせて俺の指まで伸びていて、僅かに引くだけで細かく振動させられる。
この振動が口当て布の内側で響き、ケンノスケが声を出しているような仕掛けになっている。
音も声も突き詰めれば空気の振動だが、人の声に聞こえる振動を作り出すのにはかなり苦労した。
おかげでケンノスケを完成させるのに1か月も掛かってしまったが、仮にこれが映像化されても製作工程は円盤の特典映像にすらならない地味なものだった。
もうお気付きだろうが、ケンノスケの本体も指先につないだ糸で操作している。
以前作った100本の夜天光の中から60本をケンノスケの装甲と空気袋の間に張り、俺の指先につないだ1本の糸の先端に集約させた。
足りなかった分は新たに作った反物を解した大量の糸をこんにゃく糊で補強して使い、筋肉を動かすイメージで空気袋を伸縮させてケンノスケを操っている。
器用さ10兆のおかげか、指先の僅かな曲げ伸ばしだけで布人形のケンノスケをまるで生きている人間のように動かすのは造作も無い事だった。
俺の指先の糸からケンノスケに張り巡らせた糸に魔力が流れ込むのも人間らしい動作に関係しているのかもしれないが、確証はまだない。
魔力を使っているせいか魔法で動かしている錯覚に陥りそうにもなるが、そんな時にはステータス画面を確認する事にしている、
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名前:ヒドゥン・エンカ
種族:人間
性別:男
職業:なし
レベル9999
経験値――
次のレベルまで――
HP:**198964**
MP:9999999999999
腕力:1+99999
体力:1+99999
素早さ:1+99999
器用さ:1+9999999999999
知力:1+99999
魔力:1+99999
運:1+0
武器
・さざなみ:攻撃力7
・刹那:攻撃力65
・ケンノスケ:攻撃力9999
防具
頭:ボロ布の帽子:防御力4
頭:遮光器:防御力64
体:偽革の服:防御力4
体:ボロ布の合羽:防御力4
右腕:夜天光×20:防御力8105
左腕:夜天光×19:防御力8105
足:偽革の靴:防御力2
スキル
【暖衣飽食】:消費MP1
【Sドレイン】:消費MP1
俺が操る人形なせいか、ケンノスケは武器として表記される。
攻撃力は長さと硬さから算出するらしく、夜天光と同じ長さながらこんにゃく糊のみで補強した糸につないでいるケンノスケの攻撃力は見ての通りだ。
これがゲームなら、攻撃モーションや選択する技に設定されている攻撃力の方が重要なパターンだろうか?
ケンノスケには“仕掛け”もいくつかあるし、実戦までは推測の域を出ないな。
ちなみにお気付きだろうが、俺の防具も新調した。
と言っても初期装備の半袖シャツに切り取ったローブの袖を縫い付け、革に似た色調の布をこんにゃく糊で補強してから縫い合わせて革服のように仕立てただけ。
同じ布でサンダルも包むように補強し、こちらは革靴に見える仕上がりにした。
防御力は誤差の範囲だが、左右の腕に巻いた夜天光が防具として認識された。
両腕の夜天光は必要な時に伸ばせる仕掛けにしているから、いざという時の隠し武器にするつもりだ。
帽子と合羽は腰巾着としての説得力を持たせるため、ケンノスケの三度笠と道中合羽を真似てボロ布で作ったという設定にした。
迂闊に人と目を合わせないよう付けている遮光器はケンノスケと同じものだが、これで俺が本当の転生者だとバレる事が無いような嘘は用意してある。
装備をひと通り確認した俺は、ケンノスケの露払いを振る舞うべく前に出てから村へと向かった。




