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【安全に】第7話:剣を作ろう【妥協は無い】

**ヒドゥン・エンカは試行錯誤を重ね、

頑強な岩の切断に成功した**

 スパッ! スパッ! スパッ!


 両手の指に挟んだ糸を振るたびに岩を輪切りにし、鏡のような断面が現れる。


「92本、終了!」


 岩を切った糸を【暖衣飽食(スローライフ)】に戻してから入れ替える形で取り出した8本の糸を両手の指に挟んだ(おれ)は、交互に振って岩に打ち付ける。


 キンッ! キンッ! キンッ!


 新たに取り出した糸が岩肌を打ち付けるたび、金属を打つような音と共に火花が走る。


「これで100本!」


 8本の糸の全てに確かな手応えを感じた(おれ)は、気合と共に両腕を振り上げる。


 ガラガラガラッ!


 8本全ての糸が輪切りにしていた岩を持ち上げながら切り刻み、岩はサイコロのように細かくなって落ちて来た。



「ようやく完成か、もう昼だな」


 カルシウムの粉を混ぜたこんにゃく(のり)を塗った糸で岩を切断した(おれ)は、そのまま根城にしている空洞のような岩の隙間に切り落とした岩を運び込んだ。


 腕力と体力が10万もあるので軽々と運べたし、器用さ10兆のおかげで身長の10倍近くもある長い糸を難無く振る事も出来た。


 岩の切断でコツを掴んだ(おれ)は【暖衣飽食(スローライフ)】で同じ糸を99本作り、1本目と同じ要領で鍛えて見事に岩を細切(こまぎ)れにして今に至る。


 細かい理屈は不明だが岩はかなり頑丈で、特定の角度で打ち付けた時の摩擦熱と指から注入する魔力によって糸に塗ったカルシウムの粉が硬くなったという訳だ。


 比較対象にはまだ遭遇していないが、ドラゴンの牙にも匹敵する切れ味だろう。


 突き詰めればドラゴンの牙だってカルシウムだろうからな。


 しかも糸だから曲げたり巻いたり自由自在で、戦術の幅も広がる。


 反物(たんもの)や三味線の糸で悪人を殺す時代劇を生前に見た事ある(おれ)には、【暖衣飽食(スローライフ)】なんて固有(ユニーク)スキルはボーナスステージも同然だった。


 身長の10倍近くある長い糸を100本も持っていると絡まったりしそうなものだが、これも器用さ10兆のおかげか不便は全く無さそうだ。



 さてこの、カルシウムの粉を混ぜたこんにゃく(のり)を塗ってから硬い岩で研磨した糸にも名前を付ける必要がある。


 名付けの必要が出て来たのも2回目だから、研磨している最中に考えておいた。


 闇に(きら)めく不可視の刃、この糸の名は夜天光(やてんこう)だ。


 早々に名前を決定した(おれ)は、この夜天光(やてんこう)が武器として登録されているか確認するためにステータス画面を開いた。


名前:ヒドゥン・エンカ

種族:人間

性別:男

職業:なし

レベル9999

経験値――

次のレベルまで――

HP:**198964**

MP:9999999999999

腕力:1+99999

体力:1+99999

素早さ:1+99999

器用さ:1+9999999999999

知力:1+99999

魔力:1+99999

運:1+0

武器

・さざなみ:攻撃力7

・夜天光×100:攻撃力8105

防具

体:村人の服:防御力1

足:布のサンダル:防御力1

スキル

【暖衣飽食】:消費MP1

【Sドレイン】:消費MP1


 つっこまねーぞ……


 どう考えても基準値より遥かに攻撃力の高い武器を100本も持つのはオーバーキルになるかもと思ったが、目的が魔王の討伐ならまだ足りないかもしれない。


 転生直後に遭遇したモンスターの大群、あれを魔王軍の最小単位と想定するのは極端な考えと決め付けられないだろう。


 ゲームみたいにリセット出来ない以上、安全に妥協は無い……



「あとは普段使いの武器も必要だよな……」


 木皿に載せたタコ焼き味の四角い塊を急ぎコーヒーで流し込んだ(おれ)は、手にした1本の夜天光(やてんこう)を眺めながら考え込む。


 夜天光(やてんこう)は確かに心強い武器だが、暗器としての側面が強い。


 (はた)から見れば、丸腰の美少年を取り囲んだ悪漢やモンスターが突然肉塊になって周囲に吹き飛ぶ怪現象そのもの。


 これでは目立ってしまう……


 すぐさま転生者だと気付かれ、魔王なら確実に刺客を送り込んで来る。


 目立たないようにするには、目に付く武器を持って周囲に溶け込むしかない。


「やっぱりオーソドックスに剣か? でも、どうやって?」


 三柱の女神に見せられた”体験版”にも出て来たくらいだから定番なのだろうが、問題は材料だ。


 【暖衣飽食(スローライフ)】に備え付けの皿や匙を改造するか?


 木の粉を押し固めたものだから夜天光(やてんこう)で切れるだろうが、替えは効くのか?


 洗面所とトイレの間にダストシュートがあったから、これらの備品が壊れる事も想定に入っているのだろう。


 だが、補充はどうなんだ?


 補充のトリガーがダストシュートへの投入だとしたら、迂闊な改造は出来ない。


 ならば、夜天光(やてんこう)細切(こまぎ)れにした岩はどうだろうか?


 確かに剣の形には加工出来そうだが、人もモンスターもいない山奥にあった岩が路傍の石と同じだろうか?


 異世界もの定番の鑑定スキルとかで岩の出どころが割れれば、すぐに転生者だとバレてしまうだろう。


 この世界に不案内な以上、迂闊に持ち運ぶのは危険だ。


 やはりここは、【暖衣飽食(スローライフ)】のみで作るのが得策だろう。


 考えをまとめた(おれ)は、さっそく脳内で完成までのプロセスを組み立てた。



 先日作った布皿を食事を作る装置に入れた(おれ)は、いつものこんにゃくの粉と共に鉄粉を作った。


 鉄は人体に必要な栄養素だから、この装置でも鉄粉としていくらでも作れる。


 欲を言えばこの鉄粉の山を溶かして様々な鉄製品に加工したいところだが、火を起こす手段すら無い現状では難しいだろう。


 手段が浮かぶまでの思考、確立するまでの試行錯誤、製鉄用の炉の建造、設備が順調に稼働するまでの調整、その間も魔王側に見付かるリスクは付きまとう……


 タイパとまでは言わないが巧遅が得策とは言えないのもまた事実、現時点で実現可能な手札(カード)を切るしかない。


 そんな事を考えながら鉄粉とこんにゃくの粉を入れた布皿に水を入れ、ローブの袖から作った刷毛(ハケ)(ヘラ)の合いの子で混ぜて鉄粉入りこんにゃく(のり)を作った。


 次に服を作る装置でハンカチほどの大きさの白い布を作り、(ほぐ)し取った糸は縫い針から少し伸びたくらいの長さで切り取る。


 同じ要領で10本ほど切り取った糸それぞれの片側に輪を作って鉄粉入りのこんにゃく(のり)で接着し、続けて糸全体にも鉄粉入りのこんにゃく(のり)を染み込ませる。


 鉄粉入りこんにゃく(のり)を染み込ませた糸10本全てをまっすぐに伸ばして乾かしたら、輪になっていない方の先端を夜天光(やてんこう)で研磨して尖らせる。


 最後に全体を滑らかになるまで研磨して、鉄粉製の縫い針が10本完成した。


 糸に鉄粉を塗ったものを縫い針と呼んでいいものか悩んだが、どうせ(おれ)がひとり山奥で使うものだから気にするのは()めにしよう。



 服を作る装置で新たな黒一色の反物(たんもの)を作り、指にはめた“さざなみ”に付いている剃刀(カミソリ)の刃で少し大きめに切り取る。


 切り取った布を半分に折ってから先を斜めに折り、夜天光(やてんこう)を作るための糸を取り出した反物(たんもの)から新しい糸を取り出す。


 先ほど作った縫い針から1本選んで糸を通し、半分に折った布を縫い合わせる。


 裁縫なんて何十年ぶりだ? たぶん家庭科の授業以来だ……


 玉結びに並縫い、返し縫いに玉止めとかよくも思い出せたものだよ。


 これの知力10万の恩恵か?


 完成した袋を複雑な思いで眺めていた(おれ)は気を取り直し、新たな布皿に混ぜ物の入っていないこんにゃく(のり)を作った。


 出来上がったこんにゃく(のり)を袋の表面に塗り、乾いたら裏返して同じように(のり)を塗る。


 こうして、子供のチャンバラ遊びに使うビニール刀のような袋が完成した。



 残った段階はそれぞれ短いから、まとめて一気に片付けよう。


 更に別の布皿を取り出した(おれ)は、食事を作る装置で何も混ぜものの入っていない鉄粉を作った。


 作り出した鉄粉を隙間なく袋の中に詰め込みながら日本刀の刀身のような薄さに整え、口を縫って閉じてからこんにゃく(のり)で接着する。


 これで日本刀の刀身に似せた布製棍棒、刀型ブラックジャックの完成だ。


 ひと通り刀型ブラックジャックを振って満足した(おれ)は、薄い布地のガーゼを作り出してブラックジャックを包む程度の大きさに切り取る。


 切り取ったガーゼに縫い針を作るのに使った鉄粉入りこんにゃく(のり)を塗り、刀の形状により近付くよう整えながら刀型ブラックジャックに巻き付けた。


 ガーゼに塗った(のり)が乾いたら、今度は鉄粉入りのこんにゃく(のり)をガーゼで覆った刀身に直接塗りながらさらに形を整える。


 鉄粉入りのこんにゃく(のり)が乾いたら夜天光(やてんこう)で念入りに研磨し、くもりの無い鏡のように磨かれた日本刀そっくりに仕上がった。


 袋を作る時に使った反物(たんもの)から新たに切り取った布にこんにゃく(のり)を塗り、刀身の根元に巻き付けて持ち手となる(つか)を作る。


 結局のところ自分の趣味を優先して()りの少ない刀のような形になったが、普段使いの剣モドキが一応の形となった。


 一瞬だけ普通の剣と錯覚させる役目、こいつの名前は刹那(せつな)に決めた。



 刹那(せつな)の刀身を作った時と同じ要領で鉄粉入りの細長い袋を2本作り、刀身を挟む間隔に固定してから布で何度も巻いて鞘も作った。


 (つか)と鞘には鉄粉入りのこんにゃく(のり)を塗ってから徹底的に磨き、1本の鉄の棒に見えるように加工した。


 刀身の刃に当たる部分に夜天光(やてんこう)を1本貼り付けて申し訳程度の切れ味を確保して刹那(せつな)を完成させた(おれ)は、ステータス画面の装備欄を表示してみた。


名前:ヒドゥン・エンカ

レベル9999

武器

・さざなみ:攻撃力7

・刹那:攻撃力65

・夜天光×99:攻撃力8105

防具

体:村人の服:防御力1

足:布のサンダル:防御力1


 攻撃力の順に表示されるのか、地味にありがたい。


 夜天光(やてんこう)を1本減らしてこの攻撃力はもったいない気もするが、いざとなれば取り外せるから問題無いだろう。


 これでキンキンキンと剣戟(けんげき)の音を響かせる程度は出来るはずだ。


 刹那(せつな)の出来に満足した(おれ)は、作成中に浮かんだ新たな武器の作成に着手した。

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