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【この俺に】第5話:同じ数【仲間を増やせと?】

**転生者はヒドゥン・エンカと名を改め、

自身のステータスと向き合い始める**

 固有(ユニーク)スキル【暖衣飽食(スローライフ)】の確認を済ませた(おれ)は少しだけ岩山を下り、大きな岩の隙間に腰を落ち着けた。


 隙間と言っても両手を広げたまま回って壁のどこにも手が付かない広さがあり、むしろ空洞と呼んでもいい場所だ。


 これで、(おれ)が降り立った山頂付近よりは風も寒さも多少はしのげる。


 【暖衣飽食(スローライフ)】は外の環境に左右されないが、それでも出たらいきなり吹きさらしよりはマシだろう。


 初手で(おれ)の命を取りに来た魔王の監視がどこにあるのか未知数だし、身を隠すに越した事は無い……


 転生直後の出来事を思い出した(おれ)は、この異世界で為すべき使命を再確認すべく右手を見詰めた。


 貴重な攻撃手段である眼鏡の(つる)は決して()くさぬよう、右手の人差し指に指輪のように巻き付けてある。


 腕力10万、器用さ10兆の(おれ)からすれば金属の棒など粘土も同然だった。


 余った部分がはみ出したままで格好悪いが、今はこれでいいかな?


 ひとしきり指輪を眺めた(おれ)は、この身体(からだ)がどれほどの性能を持っているのか検証すべくステータス画面を開いた。



「これが(おれ)の顔だなんて、まだ信じられないな……」


 ステータス画面の左上に映る少女か人形のように整った銀髪の美少年。


 思い出したくもない生前の顔とは似ても似つかない。


 それでも(おれ)の動きに合わせて枠の中の美少年が頬を撫で片目を(つむ)るから、これが自分の顔だと慣れるしかない。


 顔が映っている枠は指で広げられ、全身を見る事も出来る。


 いかにも異世界ものの一般人が着ていそうな服の上からでも分かる極端に太くも細くも無い平均的な体付き、背は低い方だろうか?


 顔立ちも合わせてこの身体(からだ)の年齢は13か14。


 些細な事から転生者とバレるのも面白くないし、この身体(からだ)の年齢は13歳にしておく。


 (おれ)の向かう場所につながる13段の階段と同じ数……


 三柱の女神の言葉を信じるのなら、 この身体(からだ)は“即戦力”と言う事になる。


 生前、老害どもに苦しめられた即戦力信仰が命を落とした後も付きまとうか!


 地の底から湧き上がりそうな生前の感情を思い出したおかげか、(おれ)は魔王と刺し違える決意を更に強いものへと変えた。


 感傷に浸っても時間の無駄だ、さっさとステータスの確認を始めよう。



名前:ヒドゥン・エンカ

種族:人間

性別:男

職業:なし

レベル9999

経験値――

次のレベルまで――

HP:**198964**

MP:9999999999999

腕力:1+99999

体力:1+99999

素早さ:1+99999

器用さ:1+9999999999999

知力:1+99999

魔力:1+99999

運:1+0

武器

・壊れた眼鏡:攻撃力0

防具

体:村人の服:防御力1

足:布のサンダル:防御力1

スキル

【暖衣飽食】:消費MP1

【Sドレイン】:消費MP1


 何度見ても圧巻だが、これらの数字にどんな役割があるのか把握しないと魔王の喉首に食らい付く事も出来ない。


 ステータス検証の前に断わっておくが、各ステータスがどんなものか直観である程度は理解している。


 おそらくは10兆にも及ぶ器用さと10万もの知力によるものであろうが、まだ完全に言語化出来ない。


 だからこそ、実践による検証が必要と判断したのだ。



 まずは近くの岩肌を撫でるように蹴り飛ばしてみる。


 すると岩肌の表面が削れ、新しい滑らかな曲面を作り出した。


 万が一の事を考えてキックの軌道を計算しておいて正解だったぜ……


 せっかくの隠れ家が崩落したら元も子も無いからな。


 続けて(おれ)は、砕けた岩の破片を拾って握り締める。


 破片はミシミシと短く音を立ててから砕け、砂のように細かくなった。


 思った通り腕力は、物を持ち上げたり振り回したりする用途以外に物を握り潰す握力やキックの脚力といった筋力全般を意味するようだ。



 その後も(おれ)は思い付く限りの検証を繰り返し、結果をまとめた。


 まず腕力は全身の筋肉の強さ、大半のゲームによくある攻撃力に相当する。


 鋭利な岩肌に押し付けても簡単に破れない皮膚や長時間動いても疲れない身体(からだ)は体力に相当し、こちらはゲームに置き換えると防御力やスタミナになるだろうか。


 素早さは速く走るのはもちろん、頭で決めてから身体(からだ)を動かすまでの反応速度も大幅に上がっているようだ。


 これは、何かと考え込む(くせ)を持つ自分には何かとありがたい。


 器用さは手先も含めた身体(からだ)全体のバランス調整、追加ステータス込みで10兆を超えた賜物(たまもの)なのかミリどころかナノ単位で出来るようになっている。


 他にも見たものが何となく分かる直感も含むが、まだ上手く言語化出来ないから慣れるしかないだろう。


 知力は頭の回転速度、追加ステータスを含めて10万だと1秒間に小説1冊分の思考を巡らせるほど回転が速くなった。


 他にもゲームによくある魔法攻撃力に関係しているのだろうが、試す手段が無い以上は保留にしておく。


 魔力は身体(からだ)の中に(あふ)れている生前の知識には無い未知のエネルギー、数値はこの魔力をどれだけ体内に宿しているかを意味する。


 これのおかげで、今の(おれ)はファンタジーな異世界に立っていると実感出来る。


 おそらくはこれも魔法攻撃力と魔法防御力に関連しているのだろうが、今の(おれ)は魔法を使えないので今は憶測止まりだ。


 ひとつ興味深いのは、消費したMPにどれだけ魔力を込められるのかを意味する数値にもなっている点だ。


 MP1をコップ1杯の水に例えると魔力1では砂糖ひと(さじ)しか入れられないが、魔力が10万あると10万杯の砂糖を入れられる事になる。


 砂糖なら水に溶けずにコップから(あふ)れるが、魔力ならMPに全部溶け込む。


 これで2つのスキルが消費MP1で使える謎も解けた。


 1回で10万を超える魔力を使うスキルでも無い限り、(おれ)の消費MPは全て1になる。


 "これ以上スキルを覚えられれば”の話だけどね……


 最後の運は言わずもがな、落下地点が岩山だった時点で証明済みだろう。


 もし運の数値が高ければ人里近くのわら山にでも落ちて仲間になるような人にもすぐに出会えただろうし、そもそもモンスターに囲まれなかった。


 だが運の低さは他のステータスでねじ伏せられる、これも大きな収穫だ。



 ひと通り自分のステータスを確認して出した結論は、腕力に物を言わせて殴るか蹴るかすれば1体や2体のモンスターを倒せるという事だ。


 これがレベルを上げて物理で殴ればいいゲームならラスボスの撃破まで一直線のRTAだが、転生直後に遭遇したモンスターの大群が不可能を証明する。


 最初の遭遇戦をゲームに置き換れば画面に収まり切らない数のモンスターで(あふ)れ返り、処理落ちどころかフリーズしていただろう。


 だがこの異世界は、圧倒的な数の暴力を問題無く存在させる。


「これ以上は考えても仕方ないか……」


 日暮れと共に疲れを自覚した(おれ)は、【暖衣飽食(スローライフ)】の扉を開いて中に入った。



「やっぱり、そういう事だよな……」


 シャワーで汗を流していた(おれ)は、遮る事無く引き締まった腹筋の下に付いている三柱の女神様方肝煎りの逸品を眺めながら呟く。


 ここまで便利で不便だと、嫌でも【暖衣飽食(スローライフ)】というスキルを作った女神たちの思惑に気付いてしまう。


 レベルMAX(9999)で追加ステータス込みだが運以外はカンストしているのに、設備は小さくまとまり過ぎている。


 この小ささの理由は基本ステータスが全て1だからなのか?


 いや、違う。


 【暖衣飽食(スローライフ)】は仲間の、もっとあからさまに言えばハーレムの追加によって拡張させるタイプのスキルだ。


 “部屋全体を(くま)なく探せば証明出来る”という確信が脳内を高速で駆け巡り、(おれ)はすぐにシャワールームを後にした。



 シャワールームから出た(おれ)は、何の迷いも無く食事を作る装置に向かった。


 身体(からだ)を拭いてから着替えるまでの短い時間にも感心する仕掛けはあったが、今は確認が先決。


 装置のタッチパネルを起動した(おれ)は、メニューの一覧から【作成不可】の文字が並んだページを発見した。


「やっぱりそうか」


 そのページはハンバーグやオムライスといった見慣れた料理から、鳥の丸焼きや魚介のスープといったこれぞ異世界という料理が並んでいた。


 しかもご丁寧に、開放条件が仲間の追加とまで書いてある。


 見えるけど食べられない料理と作れるのに着せる相手のいない服、こうして(おれ)が確実にハーレムを作るよう誘導しているつもりなのだろう。


 思惑は理解出来たけど対策が思い浮かばなかった(おれ)はとりあえず夕食にしようと考え、タッチパネルを操作して鉄火巻きを注文した。



【お皿を所定の位置に置いてください】


 パネルの指示に従って平たい木皿を置くと、レーザーみたいな光が皿の上を渡るように何度も点滅した。


 光線が点滅するたびに木皿の上で粉の層が作られては押し固められ、すぐに鉄火巻きが6切れ出来上がった。


 と言ってもマグロの赤身に見立てた赤い粉の塊を酢飯に見立てた白い粉で囲い、海苔に見立てた黒い粉で覆った”ままごと”遊びのおもちゃみたいな見た目だ。


 口に入れるとすぐに崩れて溶けたが、それでも海苔の香り、酢飯の酸味、赤身の旨味に加えて醤油の風味とわさびの抜けるような辛さが広がった。


 味の再現は完璧、まともなものを食いたかったら女の子を連れ込めって事か……


 納得と満足を同時に味わった(おれ)は残りの鉄火巻きも平らげ、自動食器洗浄器にもなっている棚に皿を戻して寝る事にした。


 もちろん寝る前に歯を磨くのも忘れなかったぞ。


 寝ると言っても布団なんて無いから、3着ほど作った黒いローブを布団代わりに敷いて横になる。


「それじゃ、おやすみ~」


 あいさつする相手なんていないけど、生活の区切りをつけるには有用だ。


 生前の習慣に無理矢理な言い訳をした(おれ)は、スキルの起動画面に表示されていた照明のスイッチを切って部屋を暗くした。


 明日もう1日考えて他に手立てが浮かばなかったら、見切り発車でもとりあえず岩山を下りよう。


 程よく疲れた頭で今後の方針をまとめた(おれ)は、そのままゆっくりと目を閉じた。

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