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【初の実践は】第3話:まるで、迎え塩だ【異世界かよ】

**すぐ死ぬために最弱ステータスとなったはずの転生者は、

何故まだ生きているのかの原因を探る事にした**

 とにかく原因究明だ、これから何をするか考えるのは後回しでいい。


 軽く息を整えた(おれ)は生き延びた原因を探るべく、ステータス画面を開いてみた。


名前:????

種族:人間

性別:男

職業:なし

レベル9999

経験値――

次のレベルまで――

HP:**198964**

MP:9999999999999

腕力:1+99999

体力:1+99999

素早さ:1+99999

器用さ:1+9999999999999

知力:1+99999

魔力:1+99999

運:1+0

武器

・壊れた眼鏡:攻撃力0

防具

体:村人の服:防御力1

足:布のサンダル:防御力1

スキル

【暖衣飽食】:消費MP1

【Sドレイン】:消費MP1


「何だ、こりゃ!?」


 さすがにこれは声が出る……


 レベルが9999……荒野のモンスターをあの爆破で倒したからだろうか?


 いくら何でも上がり過ぎだろ……どれだけいたんだ?


 ”次のレベルまで”の表記が無くなっているから、9999が最大(MAX)なのだろう。


 更に妙なのはステータスだ……


 HPはレベルアップに応じて順当に増えたのだとすると、この異常に高いMPの説明が付かない。


 それに他の能力も基本ステータスが全て1で、運以外は高い追加ステータス……


 レベル最大なのに基本ステータスが上がっていないのは、追加ステータスが(ふた)になったからか?


 いや、それでは運が1のままの説明が付かない。


 おそらくは現在値からの割合により上昇する仕組みだが、基本ステータスが1の場合は加算される上昇値が0になる仕様なのだろう。


 試す手段も確認する手立ても無い以上、憶測はここまでにするか。


 いきなり増えた追加ステータスも気になるけど、数値だけを眺めていても解決はしないだろうからな。


 武器と防具は変化なし、だとするとスキルに要因があるのだろうか?


 スキルが2つ? しかも消費MPまで変わっている?


 まず(おれ)は、ステータスに関係していそうな【Sドレイン】の説明を開いてみた。


【Sドレイン】

・ステータスドレイン:消費MP1

【空白】から変換したスキル

自分の基本ステータスが相手より低い場合、相手の追加ステータスを吸収する

吸収したステータスが上限を超えた場合はMPとして追加される


 SはステータスのSか……確かにちょっと長いからな。


 【空白】から変換? あれはスキル名だったのかよ……


 そういえば転生する時にもらえるスキルを “最初に見たスキル”にしたな。


 つまりこれは、(おれ)が転生直後に遭遇したモンスターのスキルって事か……


 説明を読む限りステータスの吸収だけらしく、アニメやラノベによくある倒した相手のスキルを吸収する能力は無いらしい。


 ここはテンプレ通りの方が嬉しかったんだけどな……


 だがこれで、(おれ)の追加ステータスが増えた謎と異常に多いMPの謎はあっさりと解けた事になる。


 (おれ)を襲ったモンスターどもはこのデバフを使い続けていた、だが(おれ)の基本ステータスが1と最低値だったから奴等の追加ステータスが逆流して来た訳だ。


 他のステータスが計10万なのに対して器用さの合計が10兆なのは、(おれ)が転生直前に「器用に生きる」と言ったせいか?


 こんな形で要望を聞き入れるとか、曲解もいいとこだろ……


「まるで、迎え塩だ」


 塩鮭やら干物やら塩分の強い食品を薄い塩水に漬けておくと、食品の塩分がいい具合に抜ける調理法……


 Sドレインの特性をひと通り理解した(おれ)は、何故か生前の記憶にある雑学を頭に浮かべながらステータスを眺め続けた。


 多数のモンスターを倒す爆発を至近距離で受け、はるか上空まで飛ばされ、硬い岩肌に叩き付けられても五体満足で痛みすら感じない……


 ここまで頑丈だと手近な崖から飛び降りても望む(けっか)は得られないだろう。


「どうやら簡単に死ねそうにないな、完全に詰んだか……」


 考えをまとめ終えた(おれ)は、当初の目的である(やすらぎ)を得るのが困難と判断した。


「いったいどうすりゃいいんだよ……いや、そもそもどうしてこうなったんだ?」


 八方塞がりに陥った(おれ)は、女神と遭遇した時の記憶をもう一度思い出して解決の糸口を探る事にした。



『我々の世界は今、魔王の侵略を受けておる』

「じゃあ(おれ)は、魔王を討伐すればいいのか?」

『いえ、わたくしたちの信者を増やしてほしいのです』

「増やすって、まさか……?」

『察しがいいな、さっきの体験版の通りにすればいい』


 時系列としては巨大少女の姿をした三柱の女神が紹介を終えた辺りか?


 女神たちは(おれ)を転生させた理由を教えてくれた。


 ちなみに“体験版”というのは、剣士に転生した(おれ)がギルドの部屋に連れ込まれて女性に押し倒されるまでを夢の中で疑似体験させるものだ。


 死後の魂に夢を見せるなんて女神たちの術は見事なものだよ、内容がエロマンガよりも雑な導入だった事を除けばだが。


 時系列的には“体験版”が始まったのは女神たちの紹介が終わった直後、出来れば二度と思い出したくない。


「何だか回りくどいな~、そもそも何で(おれ)なんだよ?」

『おぬしの記憶が必要じゃからの』

「記憶? 何か特別なものなんて無いはずだけど?」

『戸惑うのも無理からぬ話じゃ、ここは素直に説明した方がよさそうじゃの』


 理由を聞いても戸惑うばかりの(おれ)に太陽の女神セキは、回りくどい手段を使って信者を増やしたがる理由を説明してくれた。


 ここからは、太陽の女神セキの話をまとめるとしよう。


 女神たちが創った世界に人が生まれてから1000年ほど経った頃、魔王が入り込んで来た。


 神々の中には創造神が地道に育てた異世界を(かす)め取ろうとする(ヤカラ)がいるらしく、そんな侵略者をここでは便宜上魔王と呼んでいるらしい。


 時が過ぎる事で人類との共存を望むような魔王もいるらしいが、(くだん)の魔王はこの世界を創造した唯一神を名乗った挙句に嘘を並べ立てた教典まで作り出した。


 更には魔王の眷属が信者や神官を装って布教しながら各地に神殿を勝手に建てた挙句に路上で祈り出し、乗っ取りは静かに進んでいるらしい。


 何だか手管(てくだ)に既視感があるが、魔王ってのはどこも同じなのかもしれない。


 簒奪(さんだつ)の魔王と言っても表向きは神なので、女神たちも迂闊な行動は出来ない。


 そこで女神たちは自分達に都合のいい人間の身体(うつわ)を作り上げ、魔王に入信しない住人を増やそうと画策した。


 だが、無垢な魂を一から地上で育てると魔王の教典に染まるリスクがある。


 そこで女神たちは、魔王の教典に染まりようの無い魂を利用する事にした。


 数百年前に地球人の魂を転生させてある程度の成果を得られたから、今回も同じように“信者”を増やそうと考えたらしい。


 つまり、(おれ)は偶然神気で買われただけの2代目転生者って訳だ。


 ちなみに神々はある程度だが時間を超越出来るので、今から数百年前に転生した先代は(おれ)の2年前に命を落とした男の魂を神気で買って使ったそうだ。



 ここまでの話をまとめると(おれ)が転生したこの異世界は、簒奪(さんだつ)の魔王という厄介な脅威にさらされている。


 魔王の侵略が着々と進む一方で女神たちの台所事情は悪化の一途、(おれ)の魂が天に還って神気に換金出来ない限り次の転生者となる魂も買えないありさまだ。


 種族は人間なんだから寿命もあるだろうが、(おれ)が死ぬまでの間に魔王がどれだけ侵略を進めるのかは未知数だ。


 それに魔王は、確実に転生者である(おれ)の命を狙って来た……


 根拠は2つ、(おれ)を“テンセイシャ”と呼んだモンスターと【Sドレイン】だ。


 ひとつ目は言わずもがな、モンスターどもは(おれ)が転生者だと知って襲って来た。


 2つ目も難しい話ではない、基本ステータスが低いと有利になるスキルを魔王の配下が使うと女神たちが知っていたら高いステータスを割り振る訳がない。


 そう、【Sドレイン】は転生者を抹殺するためだけに魔王が作ったスキルだ。


 ステータスを利用したスキルを作り出した魔王だ、手下のステータスを見る事も出来るだろう。


 だが逆に、(おれ)と対峙したモンスターどもは誰もステータスを把握出来なかった。


 もし1匹でもステータス画面を開ける奴がいれば、即座にスキルを中断して直接殴りに来ていた。


 ステータスが身体(からだ)と記憶の齟齬(そご)を視覚的に理解出来るシステムなのは確かだが、同時に操作する手段も存在するこの世界の厳然たる(ルール)だ。


 そして魔王は(ルール)を利用して自分に有利なスキルを作り出せる事になる。


 だがこれは、魔王も手下もこの世界の(ルール)から逸脱出来ない事を意味する。


 (おれ)がモンスターのスキルを覚えたのも、その証拠のひとつだろう。


 つまり魔王にもステータスが存在し、HPを0にすればこの手で倒せる!


 荒野でモンスターを殲滅した爆発はあと1回だけ使えるな……


「神風特攻は日本人のお家芸……って何かのセリフにあったよな~」


 気が付けば(おれ)は、両端が折れた眼鏡の(つる)を握ったまま指で軽くなぞっていた。


 刺し違えるしろ敗れるにしろ、魔王の侵略を阻止しながら(おれ)の命を天に送り返す方法はこれしか思い浮かばない。


「まずはこの身体(からだ)の名前を決めるか」


 今後の方針を固めた(おれ)は、長い道のりの相棒を決める事にした。

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