【最高の】第26話:分け前【贈り物】
**角が生えたオオカミ、ダガーホーンに遭遇したヒドゥンは、
ケンノスケを駆使してあっさりと返り討ちにした**
周囲を確認した俺はケンノスケを操作して袋の空気を抜き、金色の断罪剣を元の長剣に戻した。
「ふむ……どうやら終わったようだな」
「まさか剣の大きさが変わるなんて」
「迂闊に抜けないって、そういう意味だったの」
ミアとポーラがただ茫然と眺めているが、俺からすれば当然の考え方だ。
元より魔王の喉首までの血路を開く剣、広範囲攻撃が必須なのは自明の理。
だが鈍器と大剣だけでは使い勝手が悪い、少し小回りの利く技も考えないと。
まずは素直に未完成である事を明かしておくか。
「ああ、俺はまだ修行中の身だからな」
「これで修行中って、どれだけ強くなるつもりなのよ……?」
「ケンノスケはストイックなの、ちょっと引くの……」
「それよりみなさん、使える素材があるか確認してみましょう」
ミアとポーラが言葉を失いフィースも呆れて話題を変えるが嘘は言っていない、目指す魔王の喉首を考えれば研究と改良の余地はまだあるからな。
とはいえ戦いだけが修行じゃない、ここはフィースの提案に乗って新たな学びを得るとしますか。
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「相変わらずの事ですが、酷いありさまですね……」
「あっはは~、ちょっと気合入っちゃってぇ~」
「いつも全力なの」
「はぁ……あなたたちは……」
笑ってごまかすミアと開き直るポーラにフィースが深いため息をつくのも無理はない、ペンライトで地面を照らすだけで赤いシミが点在する惨状が見えてくる。
ゲームみたいにドロップアイテムが出て来る訳でも無い以上、まず基礎から知る必要があるようだ。
「なあフィース、素材って何だ?」
「魔獣の角や牙、それに毛皮や魔石の事ですね」
「角や毛皮は何となく分かるけど、魔石って?」
予想通りの回答だが、もうひとつ踏み込む必要がある。
名前は同じでもゲームによって意味の異なるアイテムは数多くあり、フィースの口から出て来た魔石も典型的な例と言える。
ましてここはゲームの世界などでは無く、生身の身体で生き抜く現実の世界。
例え魔王と刺し違える身でも、世界の理を把握するに越した事はない。
「魔獣の体内で魔力が結晶化したものです、主にポーションの材料になります」
「その魔石ってのは、どんな生き物からも取れるのか?」
「まさか……そんな生き物がいたら、とっくに家畜になってますよ」
「つまり、魔石が取れる生物が魔獣に分類される訳だな?」
「その通りです! まずは別働隊の方を見て来ますね」
「俺も着いて行っていいか?」
「ええ、お願いします」
ケンノスケを通したまとめにフィースが興奮気味に頷いてくれた。
いつぞやのゴブリンは魔石ごと灰にしていなかった事、フェザリー族や海辿族、獣人を含めた人からは取れない事を知れたのが今回の収穫だ。
密かに安堵した俺はペンライトを手に取り、フィースの後を着いて行った。
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俺は腕に隠して巻いている切断糸夜天光を弾いて反響定位を使い、ケンノスケが斬った別働隊のダガーホーンの位置をあらかじめ確認しておいた。
でも手のうちを明かす気は無いし、まずは記憶に頼った振りをしておく。
「確か向こうの方だったかな……」
「この暗闇でも方向が分かるなんて、見事ですね」
「え? ああ、先生の弟子だからな」
あのネコ耳が何も捉えていないとは考えてはいないが、知らない振りをしているうちはこちらも合わせるしかないだろうな。
「ふふっ、ケンノスケさんはヒドゥンに教えるのも上手なんですね」
「そう言ってくれると俺も嬉しいぜ……っと、見付けたぜ」
「ヒドゥンもさすがですね……うわわぁっ!?」
この読み合いとも馴れ合いとも付かないやり取りをどう乗り切ろうか俺が思案を重ねていると、突然フィースの足がもつれて転んだ。
慌てて立ち止まった俺が振り向くと、白タイツが目に飛び込んできた。
尻もちをついたフィースの黒いローブが膝下まで捲れて白いタイツに覆われた、まるで女の子みたいに細いふくらはぎが露わになっていたのだ。
「大丈夫か? 足とかケガしてないか?」
「え……? フギャァッ!?」
これが女性だったら戸惑っていた俺は冷静に手を差し伸べたが、逆にフィースは驚いた猫そのままの悲鳴を上げて足を隠すように座り込んでしまった。
姫さんの使用人なんだし、白タイツもドレスコードか何かだろうか?
そんな事を考えている間にフィースが立ち上がり、ローブの裾を軽く払って落ち着きを取り戻してくれた。
「大丈夫か? もう歩けるのか?」
「あ、はい。お気遣いありがとうございます」
「えーっと……まあ、その……姫さんの好みに合わせんのも大変なんだな」
「んーっ……!」
「いや、えーっと、その……」
「もう大丈夫ですよ、早く解体しましょう」
フォローしたつもりのひと言で顔を赤くしたフィースが甲高く声にならない声を上げてから黙ってしまい、俺は次の言葉を選ぶ羽目になった。
だが俺が後悔している間にフィースが落ち着きを取り戻してくれたのか、口元に笑みを浮かべてから解体の準備を始めてくれた。
やはり生前の癖は簡単に消えないか、さっさと魔王と刺し違えたくなったよ。
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「角はこうやって切り離します、ヒドゥンもやってみてください」
「オッケー、これでいいか?」
「1回見ただけでここまで出来るなんて、今まで解体して来なかったのが不思議なくらいですよ」
「先生と会うまでは魔獣と無縁の生活をして来たからな」
一刻も早くケンノスケと合流したかった俺は、フィースに借りた解体用ナイフでダガーホーンの文字通りダガーナイフみたいな角を根元から切り離した。
器用さ10兆の本領発揮に舌を巻いたフィースが首を傾げるのも無理はないが、今まで魔獣に遭遇した事は無かったのだから嘘は言っていない。
この調子で残りも手早く片付けようと考えた矢先、厄介事が再びやって来た。
「そうですか。ところで、ヒドゥンの思い人ってどんな方なんですか?」
「また随分と藪から棒だな……出来る事なら俺の事情に巻き込みたくないんだ」
「ヒドゥンは優しいんですね、思われてる人は幸せ者ですよ」
「んな訳無いだろ、こんな顔なんだし。そもそも何で気になるんだよ?」
「ルルーメがヒドゥンの思い人だという噂を小耳に挟んだものですから」
よもや同性から恋話を振られるとは思わなかったが、フィースの立場を考えれば納得の行くものだった。
確かに主のルルーメを一方的に死亡フラグに利用させてもらっているが、それを正直に伝えるほど人の心が無い俺ではない。
「酒場での話か、あれは先生が話題を切り替えるタイミングを間違えただけだよ」
「なるほど、そういう事だったんですね」
「そもそも独りよがりなんだし、本願成就までは俺だけの問題だよ」
「分かりました、では作業を続けましょう」
用意しておいた言い訳にフィースは一応の納得を示してくれ、俺達は黙々と解体作業を再開した。
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別働隊の解体を終えた俺とフィースは、流れで本隊の解体も終えてから戻った。
「角は5本、うち無傷は2本だけですね。牙も同じで毛皮はほぼ全滅、と……」
「あとはフィースに教えてもらった魔石、売り物になる塊が8個ってところだ」
「ヒドゥンの飲み込みは早くて助かります、素材収集の才能がありますよ」
「そりゃにゃんこ……フィース先生の指導が上手いからだぜ」
「もう、ヒドゥンったら……おだてても何も出ませんよ」
ボロ布の合羽を脱いでから地面に広げた俺はフィースに戦利品を並べてもらい、互いに目を合わせて笑い合った。
正確には俺もフィースも目を隠しているけどね……
呪いとまでは言わないが女性とは距離を置きたい俺の身体にとってフィースは、一服の清涼剤のような存在になりつつある。
でも距離感がバグるのも危ういし、ここからはケンノスケに割って入らせよう。
「これだけなのか。すまん、加減は出来ない性分でな」
「構いませんよ、ほとんどは土に還しますから……うわぁぁっ!?」
「ちょっと、フィーくん? ケンさんには甘くない?」
「最初から土に還してる、もっと評価されるべき」
嬉々としてケンノスケに説明を始めたフィースだが、案の定ミアとポーラに遮られた。
もしケンノスケを作らず素顔も晒していたら、あの2人に挟まれていたのは俺になっていたのだろうか?
(すまん、フィース……)
奇しくも身代わりになってくれたフィースに俺は、心の中で謝罪していた。
「それより素材の分け前を決めましょう」
「俺達はルルーメ殿に招待された身、2人で何かひとつ分けてもらえばいい」
「いいの? 少年くんの治療費も必要なんでしょ?」
「それならこれ、ボスオオカミの角がいいと思うの」
やっと本題に入ったのでケンノスケを通じて先手を打つと、ミアとポーラが一番大きなダガーホーンの角を差し出して来た。
もしここで何も言わないでいたら、ここにある素材の多くはケンノスケのものになっていただろう。
だが魔王と刺し違える身としては、未来ある人に有効活用してほしい。
自分の覚悟を忘れぬように目を閉じていると、フィースがポーラから受け取ったボスの角を俺に差し出して来た。
「ぼくも賛成です。でもこれはヒドゥンが持った方がよさそうだ」
「え? 俺が?」
「あら? フィーくんが口出しするなんて珍しいわね」
「理由を聞きたいの」
「これを解体用のナイフにすれば、きっと今後の冒険でも役に立ちますよ」
「なるほど、そういう事なら遠慮せずに受け取っておこう」
「ありがとな、フィース。きっといいナイフに仕立ててみせるぜ」
怪訝な表情を浮かべて迫るミアとポーラにも動じなかったフィースの考えは納得出来るもので、俺は抵抗なく角を受け取れた。
フィースも俺の未来を考えてくれていた事が、訳も無く嬉しかったからだ。
ささやかな友情を冥土の土産に出来た俺は、息を整えてケンノスケを操作する。
ケンノスケの反響定位で他に魔獣はいないと確認したし、いよいよウサ耳姫との対面が近付いて来た。




