【先手】第25話:対魔獣戦【必勝!】
**ルルーメの待つ丘に向かう途中、
ヒドゥン達は角を持つオオカミ、ダガーホーンの群れに遭遇した**
遠くの方から俺達を狙う鋭い牙と角を持ったオオカミ、ダガーホーンの唸り声が徐々に近付いて来る。
群れの気配に違和感を覚えた俺は、ケンノスケの反響定位を使って動きを探ってみた。
するとやはり、ダガーホーンの群れから3匹ほどが俺達を迂回するコースを取りながら先行していた。
これはどう考えても挟み撃ちを狙っているな……
「ふむ……3匹が別行動を始めたな」
「大勢を囮に後ろから挟み撃ち、ダガーホーンの常套手段ね」
「後衛が襲われて壊滅する初心者パーティーも多いの」
「別働隊を気にするあまり、本隊への対応が遅れるケースもあるそうです」
「ならば……真空閃!」
『ギャインッ!?』
3人の情報を分析した俺はケンノスケに居合抜きの構えをさせて切断糸夜天光を放ち、しばらくして暗闇からオオカミの悲鳴が響いた。
本来は戦力分散のバランスが攻略の鍵なんだろうけど、敵の位置が分かるのなら先手を打つに限る。
「今のって、まさか……」
「別働隊を先に仕留めたの!?」
「ああ、射程内だったからな」
「無茶な理屈なの……むっ!」
『グルルルル……ッ』
予想通り呆気に取られてくれたミアとポーラだったが、すぐさま我に返って臨戦態勢を取った。
夜道を飲み込む闇の奥にオオカミ達の濁った緑色の眼光が浮かんでいたからだ。
「ほぅ、速いな……しかも退かぬか」
「群れのボスはこっちにいるみたいなの」
「でも挟み撃ちが無いのなら、対処のしようもあるわね」
気配が前方にしか無いのを確認した俺はケンノスケに金色の断罪剣を構えさせ、ミアとポーラもそれぞれの得物を構える。
ポーラの言う通りボスオオカミがいるなら戦いは避けられないし、ミアの言葉を信じるなら正面の敵に集中すればいい。
ならばここは、降りかかる火の粉を払うまで!
▼
『アォーンッ!』
しばらくしてダガーホーンが1匹、ケンノスケに角を向けて突進して来た。
先の真空閃でケンノスケを獲物ではなく敵と判断しての突進だったのだろうが、素早さ10万の俺には大差のない接近に過ぎない。
「ふんっ!」
バキッ!
『ギャインッ!?』
ケンノスケを操作して金色の断罪剣を振り、跳び掛かって来たダガーホーンの下あごを狙って打ち返した。
金色の断罪剣は金色ビキニから解し取った糸を空気で膨らむ袋に巻き付け、俺が持っている擬装刀刹那と同じ芯に被せた構造になっている。
つまり鉄粉を詰めた剣型のブラックジャックでもあり、打撃にも使える。
下あごを砕いた以上、仮に生き延びても野生では生き残れない。
色々と思うことはあるが、人を襲う野生動物は駆除以外の解決は無いのだ……
そんな生前の些事を考えていたら、後続のダガーホーンに鞭を振って足止めしたミアが振り向いた。
「あら? 今度は剣を抜かないの?」
「この剣は迂闊に抜けないのでな」
「え~、そうなの? 少し楽できるかな~、って期待したのにぃ」
「やる気が無いなら下がってるの、【凍結輪枷】!」
出来るだけ夜天光を使いたくない思惑をはぐらかしたらミアが冗談めかして唇を小さく尖らせ、ポーラは魔力を集中させた右手を地面に当てた。
これはマズい!
俺が直感で後ろに跳んだ直後、ポーラを中心に周囲の地面が氷に覆われた。
『アォッ!?』
「ちょっとポーラちゃん!? ケンさんがいるのに……あら?」
「俺の身体は少し特別製でな」
「それでこそケンノスケなの、反撃開始なの」
接近していた4匹のダガーホーンの足が凍り付いて動きを封じられ、慌てて空に飛んだミアはポーラへの抗議を途中で止めた。
咄嗟に作動させたホバー機能で氷の上に浮かせたケンノスケに満足そうな笑みを返したポーラは、氷の上で動けぬオオカミどもに向かって軽快に滑って行った。
▼
『ギャィィィンッ!?』
「今のうちだ。ヒドゥンは、ぼくとこっちに」
「あの氷から離れるのは分かるけど、なんで屋台?」
「ポーラさんの屋台は頑丈ですから、後ろに隠れられるんですよ」
オオカミどもの断末魔の叫びを背中に聞きながらフィースに手を引かれた俺は、道端に停めたポーラの屋台の裏に隠れた。
見た目の奇抜さで気付かなかったが、バリケードとしても活用できるようだ。
ハリボテのレバーアクションライフル、ヴァッサー・ライヒェを手にした俺は、すぐに撃てるようレバーを下げてから戻して薬室にハリボテの弾薬を装填した。
氷に足を取られた先発隊のオオカミどもは既に全滅し、後続のダガーホーン4匹ほどが滑る足元をものともせずに近付いて来る。
「つまり、ここから援護すればいいんだな?」
「はい。まずはぼくが、【拘束光輪】!」
ヴァッサー・ライヒェを構えた俺に手本でも見せるように、フィースは手にした木製のロッドを振って呪文を唱えた。
呪文と同時に光の紐が先端に現れたロッドをフィースが釣りざおのように巧みに振って輪を描くように紐を投げ、先頭を走るダガーホーンの首に巻き付ける。
『ギャイン!?』
「いいわぁ、フィーくん! 【火属付与】!」
首に光の紐が巻き付いたダガーホーンが堪らず悲鳴を上げ、低空飛行で氷を避けていたミアは機を逃さずに呪文を唱えて手にした鞭に炎を纏わせた。
「いくわよ~、それ~」
『グギャッ!?』
気の抜けた声とは裏腹にミアが鋭く鞭を振り、炎を纏った鞭は首に紐が絞まって倒れたダガーホーンを容赦なく黒焦げにした。
少々残酷にも見えるが役目も理解したし、ここは腰巾着の仕事をしますか。
ヴァッサー・ライヒェの照準を走り回る影に合わせた俺は、用心金に掛けていた人差し指を引き金に移した。
パンッ!
『ギャゥンッ!?』
ヴァッサー・ライヒェの銃口から乾いた破裂音が響き、ミアと距離を取っていたダガーホーンが悲鳴と共に足を止める。
パンッ! パンッ!
『ギャォッ!?』『ギャワワンッ!?』
すぐさまレバーを下げて戻した俺は排莢と再装填を繰り返しながら引き金を引き続け、後続2匹のダガーホーンを続けざまに倒した。
他に近寄ってくるダガーホーンがいないのを確認した俺は、地面に落ちた薬莢を手早く拾った。
どの薬莢もカルシウムの粉末を混ぜたこんにゃく糊を塗った布を丁寧に研磨した逸品、また圧縮空気を注入すれば再利用出来る。
逆に弾丸は、鉄粉を混ぜたこんにゃく糊を弾丸状に固めただけに過ぎない。
銃身にライフリングを施して遠心力を加えても貫通力が足りず、ダガーホーンの分厚い毛に阻まれた弾丸はそのまま潰れてしまった。
だが圧縮空気で撃ち出したおかげか強力な衝撃で動きを止め、その隙にポーラが投網を振り上げながら駆け寄って来てくれた。
「ナイス少年、【氷結晶鎚】!」
『グギョェッ!?』
呪文を唱えて手にした投網の先端に巨大な氷の塊を張ったポーラが勢い良く振り回し、起き上ろうとした3匹のダガーホーンをまとめて血飛沫に変えた。
地面には僅かな体毛と血痕が残っただけとか、どんだけ怪力なんだか……
とにかく今は、彼女たちが味方だという事実に感謝するしかない。
こっそり安堵しながらケンノスケを操作して反響定位を使うと、ダガーホーンの群れに新たな動きがあった。
『グルルル……!』
「ほぅ……主を守るその意気やよし!」
残ったダガーホーンがひと回り大きなボスを囲んで唸り続け、俺はケンノスケのホバー機能を作動させながら近付かせた。
「だが、見逃がす訳には行かないのでな。大刀居合抜き!」
『ギャゥンッ!?』
間合いまで入ると同時に金色の断罪剣の芯に空気を入れて大剣に変え、ボス諸共ダガーホーンの群れをまとめて横薙ぎに両断した。
ミアとポーラはもちろん、フィースの視線までもが巨大化した金色の断罪剣へと向いているのが手に取るようにわかる。
俺は周囲の注意がケンノスケへと向かった隙に剃刀付きの指輪、さざなみを懐に小さく開いた【暖衣飽食】に戻してから遅れ気味に立ち上がった。




