【いかにも】第24話:夜空の神殿へ【ファンタジー】
**町を散策していたヒドゥン・エンカは、
ミアとポーラと共に暖かな時間を過ごした**
ウサ耳姫ことルルーメと会う約束の当日が来たが、町の門に向かう俺の足取りと心境は複雑だった。
目的は一応、月の女神サヤとのコンタクト。
誘って来たのは使用人のフィースの独断専行だが、ルルーメ側から。
それでも俺にとっては、生前も含めて初めての女性との外出。
しかも相手は、俺が魔王と確実に刺し違えるために一方的な都合でプロポーズをすると決めた相手。
さすがに気取られる事も無いだろうが、どうしても意識してしまう。
だがルルーメだってケンノスケに興味を持っているだろうし、何事も無く終わるはず。
そんな事を考えていたら待ち合わせの場所に着いてしまった。
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しばらくして、フィースが息を切らせて走って来た。
「遅れてすみません、ケンノスケさん」
「いや、俺も今来たところだ」
何てベタな会話だ、これがデートなら定番のワンシーンだろ。
だが相手はメカクレ黒髪ネコ耳少年のフィースだ。
「それで、ルルーメ殿はどこに?」
思った事をそのまま口に出さない代わりに、ケンノスケに言わせてしまった。
器用さ10兆になっても不器用な性分は治らないらしいな……
とはいえフィース本人か後ろにいるルルーメにも思惑があるだろうし、あのネコ耳への警告も兼ねてケンノスケの反響定位を使っておこう。
果たして、返って来た魔力を帯びた音には見慣れた2人の気配しか無かった。
「ルルーメでしたら……うひゃぁっ!?」
「やっほ~、ケンさん。姫ちゃんなら別行動してるわよ~」
「ふむ……主人を放っておいて大丈夫なのか?」
「ルルーメでしたら問題ありませんのでご安心を……うわわっ!?」
「ケンノスケに近付き過ぎなの、フィースは少年同士で仲良くするの」
鳥姉さんのミアに抱き着かれ、魚少女のポーラに首根っこを強引に掴まれて俺の前まで運ばれて、フィースもなかなかに苦労人な体質らしい。
もしケンノスケを作っていなかったら、フィースはどうなっていた事やら……
だが、当のフィースは慣れた様子でぎこちない笑みを浮かべて来た。
「ははっ……ケンノスケさんは人気ですね、ヒドゥンさん」
「そりゃ自慢の先生だからな」
「一緒に旅が出来るなんてうらやましい……すみません、今のは失言でしたね」
「構わねえよ、結構楽しいからな」
ネコ耳を下げてしょげるフィースの頭を思わず撫でてしまいそうになった。
だが享年はともかく今の身体はフィースより年下、さすがに自重した。
半ば強引にフィースを押し付けられたが、こっちとしても下手に女性と話すより気楽でありがたい。
ここは、ケンノスケにアピールする2人をあしらいながら情報を集めるか。
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「ところで、姫様……ルルーメさんはどこで儀式するんだ?」
「近くの丘です。地上から月まで遮るものが無ければ、儀式は出来ますから」
「へぇ~、夜空が女神様の神殿みたいなものか」
(さすがは世界を創った女神の一柱……)
続く言葉は何とか噤んだ。
何がきっかけで俺が転生者だとバレるか分からないからな……
「なかなか詩的ですね、ヒドゥンさんも教養がおありのようだ」
「よしてくれよ、こんなのは先生の受け売りだ」
「そうですか。それとルルーメについては、お好きに呼んでもらって構いません。元より通り名が世直し姫ですからね」
「なら俺もヒドゥンでいいぜ、さん付けは居心地が悪い」
「わかりました。ヒドゥンも早く通り名が出来るといいですね」
「通り名?」
危うく出そうになったボロを取り繕ったおかげか、フィースは屈託の無い笑みを返してくれた。
相手が女性でないなら、いくら距離が近くなっても問題は無いだろう。
それにしても“通り名”ね……
何となく察しは付くけど、裏を取るなら“先生”の出番だ。
俺は質問する言葉を選ぶ振りをしながらケンノスケを割って入らせた。
「随分と興味深い話だな。フィース殿、俺にも詳しく教えてくれないか?」
「はい。冒険者は性質上、本名よりも特技や特徴の分かりやすい通り名を使うのが慣習になってます」
「何を話してるの? こっちを向くの」
「うむ……ポーラ殿も通り名があるのか?」
「早網って呼ばれてるの」
不機嫌を隠す事無くケンノスケの両腕を掴んだポーラにも聞いてみたが、確かに見事な網捌きだった。
エプロンを外して平坦な胸に白いさらしを巻いただけの格好だが、これくらいの露出は海辿族にとって普通らしいので武器が通り名になったのだろう。
そんな事を考えていると、ミアが飾りを付けた胸を揺らしながら近付いて来た。
「ちなみに私はグリグリ踊りのミアお姉さんよ」
「グリグリ? 聞いた事の無い踊りだな……」
「ケンさんには裏バージョンをお見せするわね、もちろん2人きりで」
ミアの通り名は予想以上に奇抜だった。
いやもう、どこから突っ込めばいいのやら……
絶句する俺に気付く由も無いミアがケンノスケの前で腰を覆う薄布をたくし上げようとしたところで、ポーラが助け舟に入ってくれた。
「いかがわしい話はそこまでなの、さっさと行くの」
「仕方ないわねぇ。ケンさん、また今度ねぇ~」
「ああ……ところで、その屋台も引いて来るつもりか?」
「当然なの、みんなの荷物が入ってるの」
「相分かった。フィース殿、案内を頼む」
「はい、では行きましょう」
屋台ごと割って入ってくれたおかげか、ミアもあっさり引いてくれた。
いろいろと便利だな、屋台って。
話がややこしくなる前にケンノスケを操作して本題へと戻し、俺達はフィースを先頭にハーデントレスを後にした。
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町を出た俺達はしばらく街道を歩いた。
街道は石畳が敷き詰められ、一定の間隔で光を放っている。
これもやはり、先代転生者こと永遠の賢者の発案なのだろうか?
だがケンノスケを質問攻めにするミアとポーラをあしらうのに気を取られて聞く機会を失い、先頭を歩くフィースは脇道の手前で足を止めた。
「ここからは街道を外れます、暗いから足元に注意してください」
「それなら先生に作ってもらったこいつの出番だな」
「ランタン? とは違うわねぇ?」
「【魔力光】をこんな風に使うなんて、初めて見ましたよ」
俺が懐から取り出したペンライトが照らす足元の光をしばらく眺めたミアが首を傾げ、逆にフィースは即座に仕組みを見破った。
今さらだが、もしかしてフィースは魔法系の職業なのか?
服装もローブだし、ここはケンノスケを使って聞き出すか。
「事情があって魔法は独学だがな、フィース殿は魔法の心得があるのか?」
「はい。ギルドにはソーサラーで登録してますから、いくつかの魔術は使えます」
「もしよければ、少年に魔術を教えてもらえないだろうか?」
「そうですね……使用人の仕事の合間でよければ」
「ありがたい」
「よろしく頼むぜ、フィース」
「ええ、こちらこそよろしく」
ビンゴ! 思った通り、フィースは魔法系の職業だった。
しかも魔術を教えてもらう約束まで取り付けたから、戦術の幅も広げられる。
性別が俺と同じフィースなら間違いが起きる心配も無いし、ここまで理想通りの展開に心を躍らせた俺は先頭に立って夜道を照らし続けた。
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しばらく夜道を進んだところでケンノスケを操作し、俺の肩を掴ませた。
「待て、この先に何かいる」
「きっと魔獣ね、街道を外れれば旅の女神トーラ様の加護も薄れちゃうもの」
「そうですね。ケンノスケさん、もう少し詳しく調べられますか?」
ケンノスケの言葉に頷いたミアが腰を軽く落として重心を下げ、フィースも腰の後ろに差していた飾り気のない木製のロッドを手にしながら振り向いた。
フィースが反響定位にどこまで気付いているのかは知らないけど、魔術を教わる以上は利用されてやりますか。
「ふむ……犬……いや、角の生えたオオカミのような生き物が20匹近くいるな」
「この辺りだと、ダガーホーンかしら?」
「どっちにしても戦闘は避けられないの」
反響定位の結果をそのまま伝えるとミアが慎重に鞭を手に取り、ポーラも道端に停めた屋台から投網を取り出して夜道の奥を睨み付けた。
ダガーホーン? あのオオカミの名前か?
確かに角はナイフのようだし、それが由来だろう。
角の生えたオオカミなんていかにもファンタジーだが、それだけで片付けていい話ではない。
牛や鹿のように角は本来、草食獣が捕食者から身を守るために発達させた器官。
そんな防御器官を肉食獣のオオカミが持っている理由はただひとつ。
この世界には、オオカミが身を守る術を必要とする脅威が存在する……
何にせよ魔獣との戦闘は初めてだし、万全の態勢で臨むとしよう。
ミア達の目を盗んで【暖衣飽食】の中から剃刀付きの指輪さざなみを取り出した俺は、右の人差し指にはめてケンノスケを戦闘態勢に入らせた。
「そうだな、ここは俺が前に出る」
「私も前衛に回るわ、得物が変わっても腕に変わりは無いわよ」
「同じく、腕が鳴るの」
「ぼくは魔術で援護します」
「少年はこれで後ろから援護してくれ」
「わかりました!」
「それはクロスボウ……ですか? 随分と変わってますが?」
「まあそんなもんだ、弦の代わりに空気で弾を撃つんだ」
次々と配置が決定する中、西部劇に出て来るようなレバーアクションライフルをケンノスケから受け取った俺は首を傾げるフィースに軽く説明した。
ついでに装備欄を確認しておく。
名前:ヒドゥン・エンカ
種族:人間
性別:男
職業:ニセ剣士
レベル9999
武器
・さざなみ:攻撃力7
・ヴァッサー・ライヒェ:攻撃力9
・刹那:攻撃力65
・ケンノスケ:攻撃力9999
防具
頭:ボロ布の帽子:防御力4
頭:遮光器:防御力64
体:偽革の服:防御力4
体:ボロ布の合羽:防御力4
右腕:夜天光×20:防御力8105
左腕:夜天光×19:防御力8105
足:偽革の靴:防御力2
この攻撃力9のヴァッサー・ライヒェが、手にしたライフルの名前。
無論これも鉄粉入りのこんにゃく糊で補強した布で作ったハリボテだから、この程度の攻撃力に落ち着いたのだろう。
だがこいつは魔力弾では無く実弾を撃てるよう工夫を重ねた試作品、表記以上の成果を出せるはずだ。
銃身に括り付けていた袋の紐を解いて弾薬を取り出した俺は、引き金近くの装填口から銃身の下に固定されたチューブラーマガジンにひとつずつ装填していく。
弾薬と言っても薬莢には火薬の代わりに圧縮した空気を詰めている。
【暖衣飽食】では火薬を作れないので色々と考えた結果、圧縮した空気を使って弾丸を撃ち出す事にした。
細かい事は思い出せないが、生前の銃刀法で定められた銃の定義は火薬か空気で弾丸を撃ち出す装置とされている。
逆に考えれば、空気を利用して実銃を再現できる。
当面はケンノスケに前衛を任せ、俺は銃で後方支援するスタイルで行こう。
ミアとポーラも準備が整ったみたいだし、そろそろ戦闘開始だ。




