【将と馬は】第23話:カントダーキ【テレコだが】
**冒険者ギルドの神殿で女神に会えなかったヒドゥン・エンカは、
ルルーメの儀式に同行する約束をフィースと交わした**
ウサ耳姫ことルルーメと会う約束を使用人のフィースと流れでしてしまったが、約束の日が来る2日後までヒマになってしまった……
フィースと分かれた後にギルドにも寄ってみたが、初歩的な素材採取の依頼でも2日でこなすのはまず不可能との事だった。
一般人が入れない危険域まで行くのが冒険者の仕事、町から日帰りで往復出来る範囲は騎士や兵士が目を光らせている。
ある意味できれいに住み分けが出来ている訳だ。
町には日雇いの労働もあるのだが、別に金を必要としている訳では無いので遠慮した。
というわけで、俺は急に出来た2日間の休暇で町を見て回る事にした。
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さて、どこを見て回ろうか?
ハーデントレスの町の全体像はケンノスケの反響定位で把握済みだが、それでも実物を見ておくに越した事はない。
とはいえ、いつぞやの夢に出て来た三柱の女神の言葉通りなら顔を隠す程度では確実に目立ってしまう。
どうせ最終的には【暖衣飽食】に逃げるわけだから、扉を開くために身を隠せる場所を確保しながら歩くのが最善だろう。
他に考えるとしたら、金持ちの多い中心付近は避けるべきだろうな。
こんな身なりでは警戒されるだろうし、実力を見せる事態に遭遇すれば逆に歓迎されるかもしれない。
だが、どちらにせよ面倒事に巻き込まれる可能性が高くなる。
スラムも同様だ。
貧乏人の心が純粋で綺麗なのは物語の中だけ、現実は妥協も打算も無い強欲の塊。
生前も不法に居座る奴等のために、貴重な税金がどれだけ溶けた事か……
魔王と刺し違えるからには彼らも守るべき命に入るのだろうが、積極的に関係を持とうなどとは思わない。
という感じで色々と考えた結果、冒険者が集まっている通りに向かう事にした。
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辿り着いた通りにはテントやランタンをはじめ、色鮮やかなポーションを並べる露店が数多く並んでいた。
食料を扱う露店もあるようだが保存食ばかりだし、さしずめ冒険者向けの市場といったところだろうか?
俺は衣食住を【暖衣飽食】で賄えるが、やはりここは冒険者らしい装備をダミーとして持ち歩く方がいいだろう。
とはいえ、何を買えばいいのやら……?
まずは露店を見て回ろうと考えた矢先、聞き覚えのある声が耳に入って来た。
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声の聞こえた方へ行ってみると、山賊のアジトで出くわした魚少女と鳥姉さんが何やら言い争っていた。
「屋台の前で、いかがわしい踊りはやめてほしいの!」
クレームを付けているのは魚少女だった。
山賊相手に戦っていた時とは違って短パンを穿き、エプロンを身に付けている。
“屋台”と言っていたし、料理人なのだろうか?
「いーじゃないの、お客さんも増えたんだし」
対して笑ってごまかす鳥姉さんは鎧を脱ぎ、豊満な胸の谷間とエグいハイレグが目立つ赤いレオタードの腰に薄い布を巻いた踊り子みたいな恰好をしている。
豊満な胸が揺れるたびに細長い金属片を束ねた先端の飾りがシャラシャラと音を立てるあたり、魚少女の言う“いかがわしい踊り”ってのも何となく想像は付く。
軽々と振り回していたハルバードはどこにも見当たらず、得物らしきものは腰の後ろに下げた鞭くらいだ。
これがギルドで聞いた“普段の姿”ってやつなのか?
そんな事を考えていると、言い争っていた2人が同時に振り向いた。
「うちは味で勝負するの……むっ! お前は!」
「もしかして、この間の剣士様かしら?」
「俺はケンノスケ、この世の歪みを正す旅をしている」
「私はミア、ミア・ソコーシャよ。よろしくね」
「よろしく頼む」
些細な事から転生者だとバレるのを警戒した俺は、手早くケンノスケを操作して注目を逸らすべく名乗らせた。
まずは鳥姉さんことミアがケンノスケに近付き、上目遣いで微笑んだ。
向こうとしては当然のあいさつなんだろうけど、免疫の無い生前の記憶がこびり付いた俺なら確実に勘違いする自信がある。
陰に隠れて動揺する俺に気付かれないようケンノスケに冷静な返事をさせると、今度は魚少女が近付いて来た。
「ポーラ・ネフ。よろしくなの」
「ああ、よろしく」
ポーラと名乗った少女の後ろには、荷車に四角い鍋とカウンター席が一体化した屋台が見える。
「ふむ……おでんの屋台か」
「あれ、読めるの? 賢者様の文字なのに?」
「さすがは先生! 賢者様の文字も読めるなんて物知りだな~」
何気ないひと言に反応したポーラがケンノスケを睨んだので、俺は咄嗟に驚いた振りをしながら持ち上げた。
あぶなかった……
のれんには【おでん】の三文字が書かれていたが、この異世界の住人には未知の文字でしかない。
誰がどんな意図で仕掛けたのかは簡単に推測出来るが、あっさりと引っ掛かった自分の迂闊さが恨めしい。
とにかくここは話題の変更あるのみ!
「いい匂いだな~、初めて見るけど美味しそうだ」
「カントダーキのよさが分かるなんて、少年は見どころがあるの」
「ほぅ……そう来たか。どんな由来か聞かせてもらえるか?」
「カントダーキは永遠の賢者様が海辿族のために考案して広めた料理なの」
“味で勝負”と言っていた事もあり、あっさり食い付いてくれた。
それにしてもカントダーキね……
元ネタは関東炊き、おでんの別名だ。
先代転生者は関西出身か? それとも雑学マニアだったのか?
【おでん】と書いたのれんを残すくらいだから、この異世界の住人が地球からの新たな転生者を見付けられるように残した手段のひとつだろう。
その目的は考えるまでも無い。おでん、では無くカントダーキを盛った木の器を持って来たポーラの眼差しを見ればわかる。
「これ、余りものだけど食べるといいの」
「いや、俺の身体は……」
「フィースから聞いたの、だからこれは少年のなの」
「いいんですか!?」
「“将を射んとすれば、まず馬を射よ”なの、遠慮なく食べていいの」
押し付けるように器を俺に手渡したポーラは屋台の椅子を指差し、すぐにケンノスケに近付いて微笑みを浮かべながら見詰め続けた。
布で作った人形を転生者だと思い込んでいるのは申し訳ない気もするが、これも目的のひとつだから仕方ないかな?
それでもおでん、もといカントダーキは遠慮なくいただこう。
屋台の椅子に腰掛けた俺は、ケンノスケを適当に操りながら器を確認した。
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見た目はおでん、でもここは異世界。
箸なんて無いから、木の串で刺して食べるスタイルらしい。
やや深めの木皿に入った琥珀色のつゆからは、醤油のいい香りが漂ってくる。
異世界なのに生前の記憶と合致する辺り、先代転生者こと永遠の賢者は相当量の努力と試行錯誤を重ねたようだ。
具はちくわに似た練り物を筆頭に、つみれやはんぺんに似た様々な練り物。
魚介を使っていない具は、唯一こんにゃくだけだった。
異世界に転生した時からこんにゃく糊には随分と世話になって来たが、まだ口に入れた事はなかったな……
頼れる“相棒”への親近感か、気付けば俺はこんにゃくに串を突き立てていた。
指先に僅かな抵抗があったものの串はこんにゃくに難無く刺さり、俺はそのまま口へと運んだ。
独特な弾力を前歯に感じながら口の中に入ったこんにゃくは、懐かしい歯応えが弾けるたびに出汁の利いたつゆの味が広がった。
こんにゃくの味に満足した俺は、いくつもの練り物が入った皿を見詰めた。
主な具が練り物なのも、海辿族が海に住んでいるからだろうか?
簡単な推理を終えた俺は、ちくわのような練り物に串を立てて口に入れた。
歯応えは生前の記憶にあるちくわと同じ、味もさほど変わらないから違いは材料くらいだろうか?
材料と言っても白身魚のすり身としか覚えていないし、地球と異世界で使う魚の種類が違う程度のものだろう。
素材の違いなんて誤差の範囲だし、共通点を探す方が精神衛生的にいいかもしれない。
主な練り物は白身魚だったが青魚を使ったつみれみたいな練り物も混ざっていて飽きる事は無く、気付けば俺は瞬く間に完食していた。
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串を器の縁に置いた俺は、手を合わせて軽く頭を下げた。
「ごちそうさま、美味しかったよ」
「礼儀正しいの、将来有望なの」
「そりゃどーも、何せ俺は先生の一番弟子だからな」
「里に来れば、いいお婿さんになれるの」
生前の習慣でつい手を合わせただけなのに、話が飛躍しすぎだ。
迂闊に聞き返せば面倒に巻き込まれそうだし、色事には心の壁で抵抗だ。
「はぁ!?……えっと、その……俺、人に見せられるような顔をしてなくて……」
「フィーくんに聞いたけどぉ、顔に酷い火傷の跡があるんだっけ? でもそれなら魔法ですぐ治るわよ」
「先に将来性を見つけたのはこっちなの、少年はうちの里に招くの」
三度笠を模したボロ布製の帽子で隠した俺の顔を覗き込もうとミアが膝を曲げ、慌ててポーラが止めに入った。
この身体の特性かも知らんが、2人とも“馬”を射るのに全力を出し過ぎだ。
息を整えた俺は指から伸ばした糸を軽く引き、2人が射んとする“将”ことケンノスケに割って入らせた。
「2人とも落ち着いてくれないか、話が見えて来ないのだが?」
「海辿族は女だけなの、だから外からの男が必要なの」
「フェザリー族もね。それで少年くんの傷を治療する代わりに子孫繁栄の御利益を授かれないかな~、って思ってたのよ」
なるほど、この異世界では「転生者じゃない男は女性の視界に入らない」なんて甘えは許されないようだ。
どこまで通じるか分からんが、死亡フラグを盾に説得してみよう。
無論、死亡フラグの相手はお仲間のルルーメだってことは伏せておくけどね。
「少年には心に決めた人がいるし、相場の治療費を全額払うつもりだ。これ以上、少年を困らせないでくれないか?」
「そこまでケンさんに頼まれたら、しょうがないわねぇ……」
「同じく、仕方ないの。これからどうするなの?」
「明後日にルルーメ殿との約束があってな、今日は準備をするつもりだった」
「あら? 付き合わせて悪かったかしら?」
あらかじめ作っておいた設定のおかげかミアもポーラも素直に聞き入れてくれ、興味の眼差しをケンノスケに戻してくれた。
ただ転生者みたいな名前と服装だけではケンノスケに注目を集めるのは難しい、ここは会話を続けて俺への興味を逸らし続けよう。
「いや、ここで売られている旅道具を見て回りたかっただけだ。問題は無い」
「それはよかったわ~……決めた! 私もケンさんに同行するわ」
「同じく、一緒に行くの」
「ふむ……同行はありがたいが、ルルーメ殿に確認せねば」
「それならこっちで話を付けるわ、姫ちゃんとは同じパーティーだもの」
「これで決まりなの、よろしくなの」
「ああ、お手柔らかに頼む」
話と興味を逸らし続けた結果、更に雲行きが怪しくなって行く……
山賊のアジトで共闘していたから2人の同行は想定内だったが、まるでハーレムもののネット小説みたいな展開になってしまった。
やれやれ、ケンノスケを作っておいて正解だったぜ……




